多くの事業者が活用した「小規模事業者持続化補助金 コロナ特別対応型」(以下、コロナ特別対応型)が5回をもって終了しました。
その代わりと目されているのが、「小規模事業者持続化補助金 低感染リスクビジネス枠」(以下、低感染リスクビジネス枠)となります。
低感染リスクビジネス枠とは以下のような趣旨の補助金です。
感染拡大防止のための対人接触機会の減少と事業継続を両立させるポストコロナを踏まえた新たなビジネスやサービス、生産プロセスの導入等に関する取組を支援するものです
公募要領より
誤解を恐れず言うと、コロナ特別対応型における支配的な申請形態であった「B型:非対面型ビジネスモデルへの転換」類似の投資が補助対象となると言えます。
肝心の補助率は3/4、上限額は100万円となっており、これだけみるとコロナ特別対応型よりも手厚い補助金だと言えます。
ただし、50~100万円が”上乗せ”で補助される「事業再開枠」がなくなり、感染防止対策費込で上限100万円になったという点には要注意です。
この点では、補助金の額は少なくなったと言えますが、事業者にとってはコロナ禍を乗り越えるためのとても有用な補助金ですので、是非チャレンジしていただきたいところです。
このページでは、筆者が小規模事業者持続化補助金に関する多くの支援を通じて得た知見を元に、主にコロナ特別対応型と比較する形で、申請の方法、審査の観点、経営計画及び補助事業計画の書き方などを紹介してきたいと思います。
なお、言うまでもないことですが、経営計画及び補助事業計画の加点審査があることから、とりあえず書きました程度ではほぼ確実に不採択となります。しっかりと事前にプランを練って臨みましょう。
目次
低感染リスクビジネス枠とコロナ特別対応型の違い(比較)
低感染リスクビジネス枠をコロナ特別対応型と比較してみたいと思います。
低感染リスクビジネス枠 | コロナ特別対応型(終了) | |
補助率 | 3/4 | 2/3(A型・B型)または3/4(C類型)
更に事業再開枠で定額50~100万円 |
補助上限額 | 100万円(感染防止対策費込) | 100万円
+事業再開枠で最大100万円(定額) |
受給時期 | 事業終了後の清算払い
ただし、遡及適用は可能 |
事業終了後の清算払いだが、要件を満たせば概算払いによる即時支給(交付決定額の50%)あり
また、補助対象経費は2020年2月18日まで遡ることが可能 |
補助対象事業 | 感染拡大防止と事業継続を両立させるための対人接触機会の減少に資する取り組み |
|
公募時期 | 第1回:2021年5月12日(水)
第2回:2021年7月7日(水) 第3回:2021年9月8日(水) 第4回:2021年11月10日(水) 第5回:2022年1月12日(水) 第6回:2022年3月9日(水) |
第1回: 第2回: 第3回: 第4回: 第5回(最終): |
申請方法 | 電子申請のみ | 書面申請と電子申請 |
審査方法 |
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|
審査加点項目 |
|
なし |
低感染リスクビジネス枠とコロナ特別対応型は、似ているようで違う点は多くあります。
補助対象事業でみると、コロナ特別対応型におけるA・B・C型という要件は低感染リスクビジネス枠にはありませんが、実質的にはB型と言えますので、より補助対象の範囲は狭くなると思われます。
また、繰り返しになりますが、補助率でみると低感染リスクビジネス枠の方が手厚いとは言えますが、感染防止対策の費用が込となりますので、必ずしも得とは言い切れません。
受給時期に関しては、低感染リスクビジネス枠においては、概算払いはありません。つまり、資金繰りと言う点でみると、何らかの手当が必要となります。
審査加点項目に関しては、緊急事態宣言による影響が加点項目としてあります。これについては、下記で詳しく書きます。
最後に、申請は補助金申請システム(Jグランツ)を使用した電子申請に限られるという点は要注意ポイントです。
Jグランツを使うためには、GビズIDプライムアカウントが必要ですが、取得までには数週間かかりますので、締め切りが迫っている方は「暫定GビズIDプライムアカウント」を取得する必要があります。
ただし、正式なGビズIDを採択時期までに取得せず、暫定GビズIDのままだと採択が撤回されてしまう可能性がありますので、この点で要注意と言えます。
どんな経費が補助される?
補助対象経費は、「補助対象経費の全額が対人接触機会の減少に資する取組であること」とされています。
また、
- 使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
- 原則、 交付決定日以降に発生し対象期間中に支払が完了した経費(ただし、特例として遡及計上も可)
- 証拠資料等によって支払金額が確認できる経費
- 具体的かつ数量等が明確であるもの
であることが求められます。
対人接触機会の減少に資する取組の経費
具体的には以下の通りです。詳細は公募要領に掲載されていますのでご確認下さい。
機械装置費等ですが、自動車も可ですが、移動販売や宅配用車両等という一定の要件があります。PCやタブレットなどの汎用品は対象外です。中古品も一定の要件を満たせば可です。
ただし、オンライン会議用サービスの利用に係る費用が不可となっている点は、要注意です。
zoomであれば無料若しくは低価格で利用できるにも関わらず、高額なオンライン会議用サービスを計上している申請があったが故だと思われます。
専門家謝金も最も怪しい費用が計上されやすい項目のうち一つです。時給等が不明確な場合は確実にアウトですので、気を付けたいところです。
感染防止対策費
感染防止対策費は、コロナ特別対応型における事業再開枠に代わる位置づけではありますが、現時点で経費の内容がやや不明確であるのと、計上の仕方がコロナ特別対応型と大きく変わりますので注意が必要です。
内容ですが、「内閣官房新型コロナウイルス感染症対策特設サイト Webページ」を参考にしろとあるのですが、見つけられない人も多いかと思います。
これまでの事業再開枠で補助対象とされていたのは以下の経費ですので、参考までに載せておきます。
コロナ特別対応型と大きく異なる点は、感染防止対策費の上限が補助金総額 の1/4(最大25万円)ということです。
そして、これが補助金総額の中に含まれるということです。つまり上限100万円のうち75万円が新たな取り組みの経費、25万円が感染防止対策費ということになります。
更に、「緊急事態宣言の再発令による特別措置」を適用する場合は、上限は1/2(最大50万円)となります。下記で言及する加点と同時に利用することが可能です。
なお、感染防止対策として購入する衛生用品等は大量になりがちですので、採択後の管理と実績報告が非常に大変になります。
「お金に色はないけど、できるだけ補助金で感染防止対策用品を買いたい」という考えはあるかもしれませんが、その分労力が増えるという点を念頭において計上して下さい。
審査の観点は?
審査は、①要件審査と②書面審査にて行われます。
①の要件審査は、書類がそろっているか否かのチェックや、そもそも補助対象事業者であるか否かの確認です。いわゆる形式審査です。
難しいのは、②書面審査です。
書面審査について
経営計画及び補助事業計画が専門家によって審査されます。
現在公開されている審査の観点は以下の通りです。
ア)補助事業を遂行するために必要な能力を有すること
イ)小規模事業者が主体的に活動し、その技術やノウハウ等を基にした取組であること
ウ)新型コロナウイルス感染症が事業環境に与える影響を乗り越えるため新たなビジネスやサービス・生産プロセス導入を行っていること
エ)新型コロナウイルス感染症に対して 「新たなビジネスやサービス・生産プロセス導入が対人接触機会の減少に資する取組 」となっていること (※単純な事業継続をするための販路開拓に関する取組は補助対象となりません)
オ)自社の経営状況に関する分析の妥当性、経営方針・目標と今後のプランの適切性、補助事業計画の有効性、積算の適切性を有する事業計画になっていること( 積算について、数量が一式等で補助対象経費が明確でないものは評価ができません。採択 、交付決定された補助金額について 、実績報告時に 補助金の確定金額が交付決定金額を下回ることがあります) 。公募要領より
観点を見る限り、以下のような市場と製品・サービスのマトリクスで整理できると思われます(×△〇◎の順で右に行くほど可能性が高い)。
市場(既存) | 市場(新規) | |
製品・サービス(既存) | ①-△ | ②-〇 |
製品・サービス(新規) | ③-〇 | ④-〇 |
生産プロセス導入は、恐らくテイクアウトのための調理設備導入や通販用商品のための真空調理機導入などを指していると思われ、②③④に該当すると思われます。
新たな生産プロセスを導入するのではなくても、テイクアウト用お弁当を新たに開発するのであれば、③④にあたります。こちらも採択されてしかるべきと思います。
また、非接触のキャッシュレス決済導入などは①に当たると思います。非接触の計画としてはやや弱い部類に入ると思いますが、採択される可能性はあると思います。
一方、技術やノウハウを生かすという文言を見る限り、フランチャイズに加入して新しいビジネスをやるので加盟料を補助してくれという申請は不採択になる可能性が高いと思われます(少なくても、これまではダメでした)。
④のケースに関しては、ネットショッピングを始めるので、専用の商品を開発したいというケースが考えられます。現実性はやや薄くなりますが、補助金の趣旨からすると採択される可能性は十分にあります。
勿論、既存商品のままでネットショッピングを始めるという形態も考えられます。これは②に当たると思われますが、採択される可能性は高いと思います。
加点項目について
加点項目については、できれば狙いたいところです(ウソを書いてはいけませんが)。
本補助金では、以下を証明できれば、加点項目として扱われます。
- 緊急事態宣言による影響
- 多店舗展開
- 賃上げ
1の緊急事態宣言による影響は、2021年1月~3月までのいずれかの月の月間事業収入が、2019年若しくは2020年の同月と比較して30%以上減少している場合に適用されます。
緊急事態宣言が発令された地域は、令和3年1月8日以降、随時追加や解除がなされましたが、栃木県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県及び福岡県です。
問題は、これを申請したとして地域でチェックがかかるか否かです。
営業地域全国に及ぶ場合は影響が出ますので、流石に緊急事態宣言の有無で一律にチェックがかけられることはないと思われますが、ちょっと分かりません。
審査のポイントまとめ
審査のポイントをまとめると以下のようになります。
- 要件審査と書面審査がある
- 書面審査において経営計画書と補助事業計画の審査が行われる。「総合的な評価が高い案件から順に、採択案件を決定します。」とあるように、相対評価であり、予算によってボーダーラインがある(全体的なレベルによって足切りされる可能性がある)。
- 「対人接触機会の減少に資する取組であること」が確認できないといけない
- 実行能力、実現性が伴わなければならない。
- 主体的な活動である必要があり、例えばFCや外注業者に依存するような内容は低く評価される可能性がある。
- 新たなビジネスやサービス・生産プロセス導入が必要。
- 単なる販路開拓ではダメ。
- 基本的にはコロナ特別対応型を踏襲すると推測される。
- 加点項目はできるだけ活用する。緊急事態宣言による影響があった事業者の方は特に活用すべき。
一般型と低感染リスクビジネス枠どちらがいい?
一般型の公募も続いており、低感染リスクビジネス枠と一般型どちらに申請するか迷う事業者の方は多いと思います。
両者は併用できないため、仮に両方とも採択された場合どちらかを廃止・取り下げる必要が出てきます。
なお、低感染リスクビジネス枠で申請した場合、10カ月以内に一般型に採択されていると、そもそも要件審査でNGとなります。
そのため、どちらか一本に絞って準備をするのが基本的な方針となります。
ここではどちらが良いのか幾つかの観点で検討したいと思います。
補助率・額ともに低感染リスクビジネス枠の方が大きい
以下のように、一般型と比較した場合、低感染リスクビジネス枠の方が補助率・額ともに大きいことが分かります。
低感染リスクビジネス枠 | 一般型 | |
補助率 | 3/4 | 2/3 |
補助上限 | 100万円 | 50万円 |
さらに、コロナ特別対応型が存在していた時には、一般型でも事業再開枠が設けられ、50万円~100万円の上乗せがあったのですが、今では補助対象となる感染対策関連費目がありません。
そのため、一定の感染対策費が必要なのであれば、低感染リスクビジネス枠を選ぶことをお勧めします。
一般型と低感染リスクビジネス枠は全く異なるもの
一般型はコロナ対応の要件がなく、販路開拓(+業務効率化)の広い範囲が対象となります。
コロナ禍で好影響があった場合でも、申請が可能ということです。
ですから、シンプルに
- コロナにより直接又は間接的に収益が減少し、事業形態を大きく変更せざるを得ない場合は「低感染リスクビジネス枠」
- コロナの影響の有無に関わらず、販路開拓(業務効率化)をしたいのであれば「一般型」
と考えればよいと思われます。
逆に言えば、コロナ特別対応型においてコロナへの対応が厳格にチェックされていた経緯を踏まえると、引き続きコロナへの対応度合は厳しくチェックされるでしょう。
雑誌に広告を載せる・チラシをまく等の販路開拓に特化した取組をしたい場合は、一般型で申請する方が採択可能性が高いかもしれません。
採択率から見てどちらが良い?
一般型の採択率は、第3回締切分で51.6%となっています。
低感染リスクビジネス枠はまだ分かりませんが、同程度に落ち着く可能性はあります。
とはいえ、どの補助金に関しても第1回目の公募は採択率が非常に高くなることが通例です。
ですから、採択率の観点だけであれば、早いうちに低感染リスクビジネス枠に申請する方が良いと言えます。
経営計画書の書き方
では、肝心の経営計画書及び補助事業計画書についてみていきたいと思います。
上記の書類はご自身で書くのが基本です。
商工会や商工会議所の経営指導員に書いてもらうことはできませんので、頑張ってください。
まず様式の構成は以下の通りです。この構成で最大5枚以内に納めることが必要となります。
- 申請者名
- <経営計画>①自社の事業概要
- <経営計画>②新型コロナウイルス感染症の影響・既に取り組んでいる対策
- <補助事業計画>①補助事業名
- <補助事業計画>②補助事業の内容
- <補助事業計画>③補助事業の効果
さて、こうしてみると、コロナ特別対応型とほぼ同じ構成であることが分かります。
そのため、詳しくは以前ご紹介したコロナ特別対応型の経営計画書・補助計画書の書き方をご参考にしていただければと思います。
上記の審査の観点でも述べたのですが、審査の観点自体は大きな違いがなく、参考にできる部分は多いと思われます。