絶対成功する設備投資の方法はあるのでしょうか?
勿論そんなものはありません。
だからこそ、多くの経営者が悩んでいます。つまり、判断に迷っているということです。
皆様は設備投資の際にどのような基準で判断を下していますか?
その設備投資から得られる売上、人間関係、前例、それとも勘・・・でしょうか?
事例を挙げるので客観的に考えてみてください。
<事例>
ある工業地域では、大会社の製造業B社が進出する事が決まっており、従業員の居住ニーズに当て込んだアパートの建築ラッシュが起こっています。B社は、近隣の地主Xに「必ず借りるようにするのでアパートを建築して欲しい」と言っているようです。地主Xは、金融機関から3,000万円程度ならローンすることができます。一方で、もともと賃貸住宅が殆どない地域のため、家賃相場が分かりません。また、どれだけ借りてくれるのか(入居率)も勿論分かりません。また、25年や35年B社がその地域でアパートを借りるかどうかも不明です。
こういった状況で地主Xはどのように判断すべきでしょうか?
目次
リスクとリターンを考える
上記の事例では、アパート建築費として、3,000万円以上のローンと利息を背負わなくてはならないというリスクはかなりはっきりと見えています。一方で、年間の家賃収入がどれくらい見込めるのかという点ではまるで判然としません。つまり、リターンは不明瞭ということです。
従って、この段階では、リスクが大きすぎて投資としてはお話にならないということです。
数字で判断する
上記の例で最も問題なのは、リスクとリターンが数値化されていないことです。
この数値化が重要です。なぜなら、数字で判断することが最も客観的だからです。
上記の例では、最も近い住宅地での家賃相場やアパートの稼働率を調べることが重要です。そして、部屋の数や設備などを考えたアパート建築費を割り出し、そこからローンと支払い利息を考えるのが良いでしょう。
そこから、リスクとリターンを数値的に比較する流れとなります。
数値的に比較する方法としては、いくつかの手法があります。
投資計算の方法とは
リスクとリターンを数値的に比較するには以下のような3つの方法が一般的です。以下の3つの手法は、リスクとリターンから計算した数字を一発で出してくれるので、とても便利です。
- 回収期間で考える方法(回収期間法)
設備投資金額をどれだけの期間で回収できるかを判断基準とする方法 - 現在の価値に置き換えて考える方法(現在価値法)
将来生み出されるお金を、現在の貨幣価値へ換算しなおし、合計した金額が設備投資額を上回っているかを判断基準とする方法 - 将来生み出される利回りを計算する方法(内部収益率法)
設備投資によって将来生み出される利回り(内部収益率)を計算し、内部収益率が設備投資に要求する利回りを上回っているかを判断基準とする方法
設備投資で最も一般的なのは、「回収期間法」と「現在価値法」です。
利回りを重要視する投資ファンドなどの投資家は、利回りが明確になる「内部収益率法」を活用します。しかし、設備投資については、そもそも設備投資に要求する利回りが設定できるのかという問題があり、その複雑さから実務的には敬遠されます。
また、「現在価値法」については、現在の貨幣価値を換算する場合の利回り(割引率)をどの程度に設定するか、複数の意思決定者がいる会社では、コンセンサスを得るのが難しくなりがちです。割引率の計算によって、現在価値が大きくブレるからです。
この中で最も実務的なのは、「回収期間法」です。容易に理解できるので、複数の意思決定者による判断に使いやすいと言えます。前提条件を間違ってしまうと、間違った判断を下しがちですが、この回収期間法は、前提条件が上記2つの方法よりもシンプルなため、より判断もしやすくなります。
回収期間法を活用する
回収期間法の計算式は、
回収期間=設備投資金額÷得られるキャッシュフローの総額
となります。
具体的には以下のようになります。
・設備投資金額 500万円
・1年後のキャッシュフロー 250万円
・2年後のキャッシュフロー 250万円
この場合、投資額である500万円を2年で回収(1年目250万円+2年目250万円)している事から、回収期間は「2年」という事になります。
2年で回収できるのでOKなのかNGなのか、と判断する訳です。
ある程度は暗算でもできますのでとても簡単ですね。意思決定にはスピードが重要ですから、とても有効な考え方と言えます。
一方で、精度という面では考えなくてはいけない側面があります。それは、キャッシュフローを如何に把握するのかという問題です(なお、この問題は、現在価値法、内部収益法にも共通します)。
キャッシュフローをどのようにして把握するか
キャッシュフローとは、「増えるお金」-「出るお金」です。
・増えるお金=設備投資によって増える売上、効率化によって減る人件費、減価償却費による節税効果
・出るお金=設備導入に係る追加人件費、借入の場合は返済額、それに係る利息、諸経費(保守、水道光熱費、消耗品)
「出るお金」はある程度予測できますが、「増えるお金」は予想が難しいと言えます。実際に稼働してみないと分からない部分が大きいからです。
例えば、失敗事例として、A社が3Dプリンターを導入(約600万円)した事例を挙げます。
<A社の失敗事例>
2年ほど前に導入可否の会議がありましたが、地域内では初めての導入でホームページに掲載できる&営業活動に役立つという見込みにより、3年以内にペイできるとの計画で承認されました。計画としては、よくありがちな、毎月受注件数が数%ほど増加するといったものでした。取引先への事前ヒアリング(ニーズの掘り起こし)もありませんでした。設備投資の結果、導入から現在まで、回収率は40%程度にしかならず、特に1年目はほとんど稼働しませんでした。まさに、楽観的な計画と、新しい設備を導入する高揚感が反対意見を抑えた形になった結果でした。
この事例から分かるのは、設備を導入する際は、「増えるお金」は把握が難しく、雰囲気的に楽観的な計画を立てがち、つまり、見込みが“甘く”なるということです。
なお、この事例で回収率が40%と書きましたが、最近2ヶ月で250万円(この仕事だけで約40%回収)の入金があったことが要因です。まるで予想がつきませんね。一方で、設備代金を支払っている事には変わりないので、売上があろうがなかろうが、「出るお金」は発生しています。
従って、キャッシュフローを計算する際の売上高については、逆に何年で回収したいかを設定して、必要かつ現実可能な売上高を設定する事が重要なポイントとなります。
ですから、回収期間を「耐用年数の半分」に設定して、売上高を設定するというのも実務的です。例えば、耐用年数5年の設備であれば2~3年の回収期間、10年であれば5年の回収期間を設け、キャッシュフローを算出するといった基準があれば検討しやすくなります。
更に、悲観的ケースと楽観的ケースで回収期間に幅を持たせることも有効です。
例えば、
・設備投資金額 500万円
・1年後のキャッシュフロー 125万円(悲観的)、250万円(楽観的)
・2年後のキャッシュフロー 125万円(悲観的)、250万円(楽観的)
・3年後のキャッシュフロー 125万円(悲観的)、250万円(楽観的)
・4年後のキャッシュフロー 125万円(悲観的)、250万円(楽観的)
回収期間としては、2年(楽観的ケース)~4年(悲観的ケース)という具合です。
まとめ
資金力に乏しい中小企業は自己資金での設備投資は難しく、どうしても金融機関からの借り入れに依存するケースが多くなります。その分、リスクを抱えなくてはいけないということになります。
一方で、なかなか設備投資に踏み切れず時間ばかりかかっていると、せっかくの機会を逃してしまう事もあります。どこかのタイミングでは決断しなければなりませんので、上記の計算方法と会社の事業計画を照らし合わせて、総合的に判断して下さい。