「二期連続になったから融資してくれなくなった。ではなぜ銀行は急に冷たくなったのか?その答えは信用格付で判定された債務者区分が下がったからです。」
これは「4.債務者区分はどのように影響するか?」の冒頭部分です。そして債務者区分は①取引方針に影響する②融資姿勢に影響する③融資条件に影響する、と説明しました。
このように債務者区分は、会社にとっては死活問題にまで発展する可能性もあるのです。
では、債務者区分を上げることはできるのでしょうか?
その答えは「債務者区分を上げることは可能です。それも裏ワザや違法な手段ではなく、まっとうなやり方です。ただし越えなければならないハードルが3つあります」となります。
本記事で紹介するのは、実に真っ当で当たり前の手法ですが、更に認定支援機関等と協力して「実抜計画」「合実計画」で銀行と合意を得ることで、債務者区分はランクアップすることが可能です。詳細な説明は別記事に譲りますが、このことについては頭に入れておいてください。
目次
債務者区分を上げるには?~越えなければならない3つのハードル
債務者区分を上げることは可能です。ただし、そのためにはこれから説明する3つのハードルをクリアする必要があります。
<債務者区分を上げるための3つのハードル>
- 1.良い決算書をつくる
- 2.自分のセールスポイントをつくる
- 3.銀行(銀行員)の「お気に入り」になる
1.良い決算書をつくる
銀行員から見て「良い決算書」「悪い決算書」というものが存在します。良い決算書をつくれるかどうか?これが1つ目のハードルです。
・悪い決算書とは?
まず悪い決算書から説明することにします。残念ながら、現実にはこちらの悪い決算書のほうが多いです。
ここでいう良い悪いは、法的に違法適法とか、善悪といったことではありません。あくまで自己査定、信用格付をする銀行目線で見た決算書の「良否」です。
<悪い決算書の例>
- 2つの決算書がある
- 「仮」が多い
- 説明と反省がない
最近ではあまり見なくなりましたが、税務署提出用と銀行用、2つの決算書をつくる会社があります。
言うまでも無く税務署提出用が「真の決算書」で、銀行提出用は別のものです。こういった会社は銀行に対し決算数字を良く見せたいわけで、これを銀行ではドレッシング(着飾った、つまり粉飾)した決算書などと呼びます。たいてい銀行提出用のほうが良い内容になっています。
現在多くの銀行では、税務署受付済みの決算書でなければ認めないようになっていますし、仮にその場はうまくごまかせたとしても、いつかは必ずバレます。(なぜバレるのか?はお話しできません)
決算書が2つあることよりも「銀行にウソをついた」「だまそうとした」この時点で銀行からの信用は失墜してしまいますので、絶対にやってはいけません。
また「仮払金」「仮受金」など、やたらと「仮」という勘定科目が多い決算書もよろしくありません。文字が示すように、いつかは正式な勘定へ振り分けられる一時的なものであるはずなのに、何年も同じ金額が(あるいは金額が増えて)決算書に載っている場合はもう仮とは言えません。詳しく調べてみると焦げ付いた売掛金などの不良債権だったり、本当は同業者からの借入金だったりします。
最後に、決算の結果がなんでそうなったか?という説明と、その原因を分析して振り返る反省がない決算書もあまり良くありません。「損益計算書(PL)」「貸借対照表(BS)」「勘定明細」だけで、数字はあってもこうした文章がないものが多いのも現実です。
・良い決算書とは?
これは悪い決算書とは真逆です。そのために悪い決算書の説明を先にしました。
<良い決算書の例>
- 決算書はひとつ
- 不明瞭な勘定科目が少ない
- 説明と反省がある
決算書が一つしかない、つまりウソをついていないということです。これ以上説明は不要でしょう。
「仮」などの不明瞭な勘定科目が少ない、あるいはあっても数年後に正しく処理されていることがわかるとかえって信用が増します。
そしてこれが一番重要なポイントですが、説明と反省がある決算書が良い決算書だと思います。
全国規模の税理士団体規格の決算書や会計ソフトなどでは、決算書諸表よりもこの説明と反省に力を割いているものがあり、銀行(銀行員)の目には良い決算書に映ります。
なぜならこうした説明と反省こそ「銀行が格付を上げるための作文」に使えるからです。(詳細は後述)
2.自分のセールスポイントをつくる
信用格付で決められた立ち位置である債務者区分。金融庁の指導に「破綻懸念先を格上げせよ」というものがあります。
したがって、取引実績やキャッシュフローを重視して検証するとともに、貸出条件の変更の理由や資金の使途、性格を確認しつつ、債務者区分の判断を行う必要がある。 なお、検査においては、これら検証ポイントに加え、金融機関が自己査定を行う際 のあらゆる判断材料の把握に努め、債務者の経営実態を総合的に勘案して債務者区分 の判断を行うことが必要である。
引用 金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編) 【金融検査マニュアル及び検証ポイント】
金融庁HPより URL https://www.fsa.go.jp/manual/manualj/manual_yokin/bessatu/y1-02c.pdf
なにやら難しい文章が出てきましたが、これまで説明してきた自己査定、信用格付、債務者区分などの基本的教科書である「金融検査マニュアル」関連文書の抜粋です。
ある銀行で教えられている解釈は
「赤字だから、債務超過だからなど昔ながらの信用格付はもう古い。銀行は中小企業に少しでも多く融資をしなさい!そのためには貸せる会社を増やすのではなく、貸せない会社を減らしなさい!銀行で上手く理由付けをしてくれれば、格上げしても良いよ」という内容です。
この場合の格上げする対象は「破綻懸念先」です。
借金(債務)が財産(資産)を上回ってしまう債務超過状態が何年も続くと破綻懸念先になってしまいます。もう直ぐに破綻になってしまう状態で、新規の融資は原則対応してもらえません。したがって、一度破綻懸念先になってしまうと資金調達ができなくなり、最終的には破綻する企業が多かったのです。
債務超過が続いて破綻が懸念されるから破綻懸念先なのですが、金融庁は格上げしても良い(むしろ格上げしろ)と言っています。明文化された文書はありませんが、私は勤務する銀行からそう聞いています。
具体的な格上げの方法は「銀行が格付を上げるための作文で救う」というものです。
引用した金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)には具体例も載っていて
「地域にとって無くてはならない会社」
「長年地域に根ざした企業で、地域に対す売る影響力も大きい」
「独自の技術、ノウハウがある」
「その技術は、もう日本で数社しか持っていないのでぜひ残したい」
要はこうした内容の作文で、破綻懸念先を格上げしているというわけです。
債務者区分を上げるには、こうしたセールスポイントをなるべく多くもっていることが大事になってきます。
ところで、こうした作文をつくるのは銀行員の仕事です。ある銀行員の話を聞くと「〇〇業はこのパターン、▲▲業ならこれ」というような「定型文」をいくつも持っています。(銀行員を30年も続けるとこうなります)
自己査定や信用格付はルーティン業務で、1件いくらなど直接給料に跳ね返る仕事ではないので、どれだけ手を掛けずにこなすか?という点が重要になってきます。その反面作文の出来映えで結果が左右されるので、ここが銀行員としての資質の差になり、もう一つの差が「どれだけその会社に思い入れがあるか?」という熱量の差になります。
3.銀行(銀行員)の「お気に入り」になる
良い作文になるかどうかは、「どれだけその会社に思い入れがあるか?」という熱量の差と書きました。
そのためには銀行(銀行員)の「お気に入り」になることが一番の近道です。
生々しい、というかイヤらしい話しになってしまいますが、結局は銀行員も人間です。顧客といえども好き嫌いはあります。銀行員に好かれてお気に入りになれば、すなわち銀行にも気に入られることになります。
もちろん営業(銀行員のノルマ)への協力が特効薬ですが、決してそればかりではありません。
きれい事かも知れませんが、顧客と銀行員も人と人との付き合いです。人間として常識的に、礼節をもって、約束は守る。こうした当たり前のことが意外と銀行員の心に刺さるときがあります。
ある銀行員は、「銀行員たるもの真摯であれ」という言葉を尊敬する大先輩から貰い、座右の銘にしています。
そのような銀行員は、自分が真摯でありたいので、真摯なお客様はそれだけで好きになると言います。
まとめ
銀行員のお気に入りになるのは、少し教訓めいた話しになってしまい現実的ではないかも知れません。
また良い決算書と言っても、決算の数字が悪ければ格上げには結びつかないかも知れません。
ですが、セールスポイントを作ることは可能だと思います。本業にこだわらず、地域に根ざした企業になるにはどうしたら良いか?経営者として会社の舵取りをしてきた経験があれば考えることもできるはずです。またノウハウ、技術は更に磨きを掛ければ良いのです。
実はこうしたヒントや、これまで説明したことがわかりやすく書かれている小冊子があります。それは「知ってナットク 中小企業の資金調達に役立つ金融検査の知識」といって金融庁の発行です。パソコンでも見ることができますので、URLを記載しておきます。
債務者区分を上げるヒントなど、正直言って読んで欲しくないくらいの内容なので参考にしてください。
「知ってナットク 中小企業の資金調達に役立つ金融検査の知識」