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融資のキホン(3)~返済能力はあるか?

今回は返済能力について説明します。

資金計画に関する記事では、事業に必要な資金を銀行融資で資金調達して「融資金をどのように使い、利益を生み出して、どうやって返すのか?」が資金計画と言いました。

そして「資金計画通りに返せるのか?を見極めるものさし」が返済能力です。

目次

返済能力とは?~融資審査で最重要!

  1. 預金として集めたお金を融資して、金利をつけて約束した期間で返済してもらう
  2. 預金は払戻の希望があれば、いつでも預金者に返す

これが銀行本来の姿で、難しい表現では「銀行の金融仲介機能」と言います。

預金より高い金利で融資することで、金利の差額(これが利鞘です)により金融機関は商売をしています。低金利による利鞘の縮小や、他の収益確保もあり金融仲介機能の意義は少しずつ薄れてはいますが、やはり未だに金融機関の根幹であることに変わりありません。

融資が当初の約束(約定と言います)どおり返済されて、はじめて利鞘は確保されますので、融資が返済されるか?と言う点を見極めるものさしが、非常に重要になり、これが「返済能力」と言われるものです。

銀行の融資審査は、この返済能力の審査がほぼすべて、といっても良いくらいです。

返済能力のものさし~定性評価と定量評価

返済能力を考えるものさし(尺度)はいろいろあります。

例えばブランドイメージや技術、経営者のカリスマ性など、その会社の特徴から返済能力を推し量ることがあります。これらは数字で表現できない「定性(評価)」と呼ばれます。

最近では過去の業績などの目に見える結果だけでなく、上記したような定性項目を評価する「目利き力」を養え!と金融機関は監督官庁である金融庁から指示されています。

しかしながら、やはり目に見えないものを掴むのは難しく、また金融機関の性格として、昔から数字を重視してものごとを測ってきました。これは定性評価に対し「定量評価」と呼ばれる考え方です

返済能力は数式で計算できる

返済能力を定量評価するために、数式があります。つまり、返済能力は計算できるのです。細かい説明の前に、まず数式を紹介します。

 <計算式> (融資残高)÷(返済原資)=(償還年数・償還力)

実際は融資残高を返済中(既往融資)と今度借りる融資(新規融資)に仕分けしたり融資を長期(返済期間1年超のもの)だけにしたり、と計算も一概に言えませんが、ここではイメージとして上記の式を覚えてください。

この式は「借金を、返済用に捻出したお金で返していくと、何年で完済できるか?」を計算して、その企業の返済能力を測るものです。

一般的にこの式では答えとなる償還年数(力)は10年以内が理想とされます。

なお融資残高を「要利益償還債務」と表現したり、返済原資を「償還財源」と呼んだりすることもありますが、意味は同じです。

この式のポイントになるのは「返済原資」で、こちらを次項で詳しく説明します。

返済原資について~<利益>と<減価償却費>

上記下式ではひとことで「返済原資」としましたが、返済原資を構成するのは「最終利益(*)」と「減価償却費」です。

分母が融資=借金で分子が返済原資(利益+減価償却)の構成になっているので、借金の額が変わらないなら、分子の返済原資が増えれば償還年数が短くなる、すなわち返済能力が向上するという理屈になります。

では利益と減価償却費を、銀行がどう見ているか?についてお話しします。

<利益>~最後に残るものが利益

決算書で利益といっても、営業利益、経常利益、当期利益、税引き前利益などいくつもあります。

銀行融資で返済能力を見る場合は「最後に残る利益」が真の利益だと考え、これを「最終利益」などと表現しています。

たとえば当期利益が10億円の企業でも、そのあと配当や役員報酬といった支出(社外流出、決算費用)が差し引かれると、当期利益は減ります。また当期利益も税金を支払えば目減りします。このようにして払うべきものをすべて支払い、最後の最後に企業の手許に残るお金=最終利益こそ融資の返済原資といえるのです。

ですから当期利益が10億円でも、社外流出・税金を差し引いたら5百万円しかのこらなかったとしたら、銀行では「利益(最終利益)」は5百万円と見なします。

また過去の業績悪化により繰越欠損(繰欠)があれば、これと差引して考えます。

たとえば最終利益が1億円でも、繰越欠損が3億円あれば(1億円ー3億円=▲2億円)となり「返済原資はない、マイナスである」と見なされます。(注)

 これをもう少し説明します。確定申告では、繰欠(赤字)は、翌年度以降に繰り越すことができますが(個人事業主・法人で期間は異なります)、課税所得から控除されることから法人税や事業税、住民税の金額が減少します。従って、最終利益が多く見えてしまう訳です。これだと正確な収益力(返済能力)が見えなくなるため、繰欠を差し引く必要がある訳です。

(注)銀行によっては繰越欠損を度外視し、今期の最終利益だけで考えるところもあります。

<減価償却費>~償却不足は当たり前?

減価償却費は決算で利益操作をするときもっとも利用される費目です。これは経営者の人なら理解しやすいと思います。たとえば法律で定められた減価償却費(法定償却)をきっちり計上すると、当然費用として利益から差し引かれるので、減価償却費の金額によっては赤字になることもあります。そこで減価償却を操作して費用を減らし黒字にするのが「償却不足」の良くあるパターンです。厳密には決算の操作とも言えますが、償却不足は多くの会社がやっているので銀行も目くじらは立てません。

償却不足が決算書の付属明細に「償却不足」と記載され(正直に打ち明けられ)ていれば、その数値を返済原資から差し引くだけです。

また付属明細にも記載がないケースもありますが、銀行は独自のデータで償却不足をすぐに見破りますので、やはり容赦なく返済原資から差し引かれてしまいます。

ここでは正直に付属明細に記載してあれば特にお咎め無しですが、償却不足を隠蔽するなどは最悪の場合、粉飾と見なされる危険性もありますので注意が必要です。

まとめ~数字は正直に!

ここまでまとめますと

  1. 預金で集めたお金を融資し金融仲介機能を維持するには、約束通りの返済が大前提
  2. そのため融資が返済できるか?こそが銀行融資審査のほぼ大部分
  3. 数字ではない定性評価も進んでいるが、銀行はやはり数字による定量評価を重視
  4. 定量評価として、返済能力は数式で計算できる
  5. 計算式の構成要素「利益」と「減価償却」は操作しやすいことを銀行は知っている

というようになります。

そして減価償却の項で触れましたが、お咎めなしのレベルを超え悪質な数値の操作は間違いなく銀行からの信用を失ってしまいます。

銀行は赤字になったからといって、すぐに手の平を返すほど冷たくはありません。(と信じています)

大事なのは赤字になっても事業を続けたいという意思、そしてウソはつかずに銀行との信頼関係を保つことです。

そうすれば「天気のときは天気のときなり、雨のときも雨のときなりに手を差し伸べて」くれるはずです。

銀行員の立場に立つと、「雨が降り出すと傘を取上げられる」のは一概に銀行だけが悪者ではなく、取上げられる原因がその企業側にもあると言えるからです。

ですから、皆さんは傘を取上げられないようこの記事をぜひ参考にして下さい。

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