今回は担保について説明します。
銀行融資、事業資金調達の経験があれば、担保を知らない人はいないでしょう。
では、
- 担保という言葉の意味は?
- 担保には2種類あるけれどその2種類は?
こちらはどうでしょう。
これは意外と高度な質問です。もしかすると銀行員でもすらすらと答えにくいかもしれません。
そこで今回は、担保とは?などのそもそも論的な部分から説明します。
ご自身の知識をブラッシュアップする意味で、ぜひ参考にしてください。
目次
担保とは?
そもそも担保とはどういう意味でしょう?
まず下記の説明が簡潔なので、引用します。
1 将来生じるかもしれない不利益に対して、それを補うことを保証すること、または保証するもの。抵当。「土地を担保に入れる」
2 債務者が債務を履行しない場合に備えて債権者に提供され、債権の弁済を確保する手段となるもの。物的担保と人的担保とがある。(後略)
引用 デジタル大辞泉の解説/コトバンク
銀行融資では1,2両方が当てはまります。
将来発生するかも知れない不利益に対して、その不利益が起こってしまったら補うモノが担保なのです。
言い換えると、融資が回収できなくなった場合に、担保を換金して補うということになります。
担保の特徴
次に担保の特徴を簡単に示すと、以下のようになります。
担保の特徴
- 担保に差し出しても、そのまま使い続けられる
- 何かするときは許可が必要
- 順位が重要
以下、順番に説明していきます。
1.担保に差し出しても、そのまま使い続けられる
例えば自宅を担保に差し出しても、表面的には変わりません。
自宅の名義はその人のまま、銀行の担保ですなど看板が立つ訳でもありません。そして、担保に差し出しても、そのまま使い続けることが可能です。これは住宅ローンをイメージすると分かりやすいと思います。
難しく表現すると「融資の抵当に差入れた不動産は、正常に返済されている間は、以前と変わらない使用収益が可能」となります。
自宅を担保にすると、抵当権が設定されますが(融資の抵当に差入れる)、普通に返済していれば、引き続き自分が自宅として使用できる(これが使用収益)という意味です。
2. 何かするときは許可が必要
担保物件を処分するには、担保権者全員の同意が必要になります。
良くあるケースは、建物や土地に複数の金融機関や保証協会が抵当権を設定しているケースです。
融資を受けるために、資産を担保に差し出しまくっているという状況ですが、こうなると(任意)売却などの処分をしようとする場合に大変なことになります。
抵当権には順位と言うものがありますが、何位にも関わらず抵当権者は抵当権者であり、例え5位など順位の低い抵当権者だったとしても、この抵当権者が同意しなければ、売却することができないということです。
銀行はそれぞれに方針が異なりますので、全ての同意を得るのは非常に大変です。事業再生のケースでは、大きな論点になりますので、担保権の同意については良く覚えておいた方が良いでしょう。
3.順位が重要
前項で、抵当権には順位があると書きましたが、同じ建物や土地に複数の抵当権が設定されている場合における抵当権者の順番を抵当順位といいます。
これは、法務局に登記された順番を指しており、回収の順番を示しています。
例えば、抵当権が設定された土地を1,000万円で売却したとします。
この時、一位の抵当権者(第一抵当権者)が800万円の抵当権を設定している場合、800万円を丸ごと回収することができます。
一方、二位の抵当権が500万円であった場合、200万円を回収できることになります。
このように、融資の回収が肝である銀行にとって抵当権の順位は非常に重要なものになります。ですから、後順位になる場合は、融資の稟議が通らないこともあるかもしれません。
しかし、上記で述べたように、第二順位以降の抵当権者でも処分の際に拒否することもできることから、一定の牽制ができるという理屈から実務的には融資の稟議が通ることも多々あります。
担保の種類~物的担保と人的担保
担保には物的担保と人的担保があり、このうち物的担保もさらに不動産担保と動産担保の2種類に分かれます。
<担保の種類>
- 物的担保 (1)不動産担保(2)動産担保
- 人的担保
1.物的担保
物的担保は(1)不動産担保と(2)動産担保に分かれます。ともに抵当権の対象、法務局で登記するなど、担保の性質は同じで、対象となるモノの違いで区別されます。
(1)不動産担保
これは土地建物など、いわゆる不動産を担保にすることです。土地や建物などは、そう簡単には動かない(動かせない、つまり不動)ので、不動産担保という意味になります。
これと同じ意味から、工場生産ラインや大型の機械なども不動産担保に含まれます。
(2)動産担保
こちらは動産(動かせるモノ、動いているモノ)ものを担保にする形式です。
動かせるモノとは、大規模ではなく移動可能な機械、車や電化製品なども含まれます。
動いているモノとは、そのものズバリ動物、つまり生き物のことです。
畜産物の牛、豚から養殖場の魚なども動産として担保の対象になります。
なお、動産は変動がある(畜産物をイメージすると分かりやすい、生き物なので死ねば減るし、生まれれば増える)ので、「〇〇会社畜産物一式」「〇〇工場機械一式」といったように一括りで担保にして、定期的に調査をします。
2.人的担保
人的担保とは、保証人のことです。
融資の保証人になった人は、借りている人(債務者)と同等の義務、責任を負うので、債務者が返済できなければ自宅や財産を投打ってでも返済しなければいけません。
こうした点で、保証人とはその人を担保にするようなもの、だから人的担保と表現しています。
なお、保証人については次の記事で詳しく解説します。ここでは担保の一種である、という点を覚えておいてください。
<参考>抵当権と質権の違いとは?
上記で融資の抵当に差入れたと表現しましたが、担保では抵当権(根抵当権も含む)が一般的です。しかし、もう一つ質権というものがあり、これも担保の一種です。
抵当権と質権の違いを簡単に示すと以下の通りです。
<抵当権と質権の違い>
抵当権 | 質権 | |
使用収益が可能か? | 〇 | △ |
換金(任意売却、競売)が容易か? | × | 〇 |
公信力の持たせ方 | 登記(法務局) | 確定日付の取得(公証人役場) |
抵当権は使用収益が可能 質権は使用収益が原則できない
質権の対象となるのは生命保険や預金など、人が手で持てる小さなものです。
また、質権は現物を債権者(銀行など融資をしているもの)が預かりますので、原則として使い続けることができません。これは、街の質屋で自分のものを質に入れることをイメージして貰えれば分かります。
ただし、預金は自動継続、保険も自動更新されれば効力は失われません。また保険が火災保険などなら、事故などで保険金請求することも可能です。
抵当権は換金(任意売却、競売)に手順が必要だが、質権は簡素
抵当権では換金するまでに、手順と時間がかかります。
いっぽう質権では、「融資が回収不能になったら解約して融資金に充当させる」旨を承諾する契約書になっていて、その際の手続きは簡素でスピーディーです。
抵当権は登記、質権は確定日付
担保になっていることをキチンと記録して(これを「公信力を持たせる」と言います)他の債権者に割り込まれないようにする(「第三者対抗要件を具備する」と言います)ために、抵当権は登記をします。登記は法務局にて行います。
一方で、質権で公信力を持たせるのが「確定日付の取得」で、イメージは抵当権の登記と同じです。確定日付の取得は公証人役場で取り扱います。
まとめ
最近の傾向では、過度な物的担保や保証人を求めない方向に進みつつあります。
大事なのは、担保、保証人何れにしろ自分が融資を受ける時に必要であるか?、考えることです。
担保や保証人を付けてまでしてお金を借りる必要があるのか?
資金が必要なときこそ、そして時間に迫られているときこそ、少しの時間でもいいので、自問自答し考えてください。そのときにこの記事が役に立てれば幸いです。