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融資のキホン(5)~個人保証(経営者保証・第三者保証)とは何ですか?

融資を申し込もうとした際に以下のような疑問を抱いた方は多いと思います。

  1. 融資の概要欄に「担保・保証人」とあるが何か?
  2. 融資を申し込んだら、個人保証(経営者保証)を求められたが、何か?
  3. マル経融資などに「無担保・無保証」とあるが、メリットは何か?

今回は、保証人とは何か?個人保証(経営者保証)とは何か?についてその形態や法的性質についてより掘り下げて解説します。

「担保」についてはこちらをご覧ください。)

予め書いておきますと、融資を受ける際には連帯保証人となるのが未だに通例となっていますので、極めて大きな義務を負うことになります。

銀行から債務者に代わって返済を求められたときになってはじめて連帯保証の恐ろしさを理解した、ということがないように、今のうちに勉強しておくことをお勧めします。

目次

保証人の種類と意味

「保証人」といっても、実はいくつかの種類があります。

保証人の種類
  • 物上保証人(ぶつじょうほしょうにん)
  • 連帯保証人
  • 保証人

今回は融資に関する話ですので、「保証人」「連帯保証人」が中心のお話となります。物上保証人ですが、住宅ローンを借りて家を建てるなどの際に論点となることが多いため、このページでは割愛します。

融資の際、保証人とは連帯保証人を指す

保証人とは保証債務を負っている人です。

保証債務とは、融資ならお金を借りている人(債務者)が返済できなくなったとき(債務の不履行)に、債務者に代わって返済する(債務の履行)義務のことです。

債務と同じ意味でアパート入居の「入居保証人」、会社に入社するときの「身元保証人」も保証人に含まれます。

ここで共通するのは「何かあったら責任を負う」点、言い換えると「何か無ければ責任は発生しない」ことになります。上記の保証債務で返済できなくなったときと下線を引いたのは、このためです。

銀行融資で考えると、債務者が返済できなくなったときになって、初めて保証人に請求しても手遅れになる場合も多く、保証人では不都合が出てきます。

そこで、銀行にとっては融資の際に通常の保証人と比べて融資が回収しやすい連帯保証人を活用するのが一般的です。

この連帯保証人ですが、通常の保証人と違って債務者の返済が滞った際に、銀行から代わりに支払いを求められても無視することができません。

より簡単に言うと、債務者本人と同程度の返済義務を負うことになると言えるでしょう。

このように、保証人と連帯保証人とでは大きな違いがあります。この点についてより掘り下げてみます。

保証人と連帯保証の違いとは?

「保証人」には以下3つの権利があり、「連帯保証人」にはありません。

保証人3つの権利~連帯保証人にはないもの
  1. 催告の抗弁権
  2. 検索の抗弁権
  3. 分別の利益

    以下、この3つの権利について説明します。

    催告の抗弁権

    催告の抗弁権とは、自分より先に、まず債務者本人に督促するよう求めることができる権利です。(前出)

     いきなり、返済してくれ!と言われても応じる必要がなく、まずは債務者本人に請求してくださいと言えるということですね。

    検索の抗弁権

    検索の抗弁権とは、債務者に財産があるか自分で調べ、優先的な返済を求めることができる、あるいは債務者の財産を調べるように求めることができる権利です。 

    分別の利益

    分別の利益とは、保証人が複数いるなら、その人数で頭割りした分だけ保証すれば良いという権利です。

    保証人が複数いれば人数で頭割り、5人なら保証額は5分の1で良いということです。

    保証人の権利は回収の足枷となる

    保証人の権利をまとめると、あなたが保証人として融資の保証をしたと仮定すると(あくまでも”保証人”としてです)、以下のように主張できます。

    「まず本人(債務者)に請求してよ!」(催告の抗弁権)

    「彼(債務者)は不動産をたくさん持っている筈だから、場所を教えるから(OR 銀行で詳しく調べて)、そっちから先に回収してよ!」(検索の抗弁権)

    「保証人は5人だから、5分の1だけ借金を返します」(分別の利益)

    このように権利を主張された場合、債権者は以下のような手続きで、保証人から債権を回収することになります。

    1. 協議、内容証明郵便送付
    2. 裁判所の民事調停手続
    3. 簡易裁判所を通じた督促→異議なしの場合は強制執行、異議ありの場合は訴訟
    4. 訴訟(少額訴訟もあり)

    保証人に返済させようとすると、このように非常に面倒で時間がかかる手続きを踏む必要が出てくるということです

    協議がもつれて訴訟まで長引いてしまえば時間がかかるのは勿論のこと、ここから不動産の競売手続などの強制執行手続まで行ってしまうとなおのこと時間がかかってしまいます。つまり、お金を融資した銀行にとって回収の足枷になるということです。

    そのため、融資の際は保証人ではなく連帯保証人となることが求められるということなのです

    なぜならば、連帯保証人≒主債務者であり、保証人としての権利を主張することができないからです。

    連帯保証人のまとめ

    繰り返しになりますが、連帯保証人には催告の抗弁権、検索の抗弁権、分別の利益がありません。

    あなたが融資の連帯保証人なら、

    • 全額耳をそろえて返済しろと言われても拒めません(催告の抗弁権がない)
    • 債務者の財産を先に処分しろと言えませんし、調べてもくれません(検索の抗弁権がない)
    • 頭割りの保証で勘弁して、と言ってもダメです(分別の利益がない)

    連帯保証人になったばっかりに、財産を失い一家離散になった。

    昔からある悲しい話ですが、現実のことでもあります。

    そこで、こうした保証人の問題を見直し、最近の銀行融資では、過度な人的担保(保証人)や過度な物的担保(不動産担保)を求めないよう法律で定められています。

    個人保証とは?

    では更に個人保証とは何か?について話をしていきます。

    これはその名の通り、会社や事業主の融資を個人が保証(連帯保証)する場合を指します。

    具体的には融資の保証人になることが「保証」で、融資の担保になる不動産の所有者(担保提供者、物上保証人とも)は保証人ではありません。また個人の保証についてなので、会社が融資の保証をする「法人保証」も対象外です。

    そして、この個人保証は更に「経営者保証」「第三者保証」に分かれます。

    この2つが融資の際に求められる「保証人」になる訳です。

    個人保証がクローズアップされるようになったのは、個人が融資の保証人になったことで借金を背負い不幸になるといった事例から、過度な保証を求めない融資をするよう銀行が取扱を変えたことに起因します。もちろん発端は政府の方針によるものです。

    経営者保証と第三者保証 

    経営者とは?第三者とは?

    経営者とは、法人が融資を受ける時ときは代表者(経営者、社長さん)です。経営者が保証人となる場合を「経営者保証」と呼びます。会社と社長は一心同体ですし、会社には手足がないので契約を実際に結ぶのは社長(経営者)というわけです。

    個人事業主が融資を受けるときは、本人が経営者になります。しかし、自分が自分を保証できませんから、個人事業主の場合は自分を保証人にはできません。

    この場合、「第三者保証」が利用されます。

    第三者とは、上記した経営者(社長、個人事業主)以外がすべて第三者です。

    従って、妻や子供などの家族、友達など企業や個人事業の経営に関係のない人が第三者となります。

    なお、第三者保証は、個人事業主だけでなく法人の場合でも利用されるケースがあります。

    なぜ、経営者保証や第三者保証が求められるのか?

    株式会社の場合、会社法では「株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする」とされており、これは「有限責任」と言われます。言ってしまえば、会社が倒産してしまっても、「自分が出資した分だけがチャラになる」という意味です。従って、会社法上では、会社が借りたお金は会社のとともに消滅し、経営者が返す必要はありません。合同会社なども有限責任なので同様です。

    しかし、これでは「借りれるだけお金を借りて、倒産させてしまえばよい」という所謂「計画倒産」などと呼ばれるモラルハザードを起こしかねず、銀行からしてみると融資したお金が回収できる可能性を大幅に狭めてしまいます。

    従って、会社とは別の人格(個人)である経営者や第三者に会社の連帯保証させようとするのです。つまり、「会社が倒産しても会社が借りたお金はあなたが返してください」という形で経営者保証、第三者保証を設定することで、実質的に「無限責任」とする訳です。

    一方、個人事業主はどうか?ですが、会社というハコがない訳ですから「無限責任」となります。とはいえ、ハコがない分、個人は身軽ですから、夜逃げすることもできますし、自己破産もできます。従って、銀行としては融資を確実に回収するように、保証人を立てるようにお願いする訳ですが、個人事業主が自分で自分の保証はできませんから、第三者を保証人とすることになる訳ですね。

    このような事情から経営者保証や第三者保証が使われているのです。

    経営者保証や第三者保証は求めない流れに

    経営者保証に関するガイドラインの制定

    経営者保証については、平成2512月の「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、経営者保証がなくても融資する可能性を検討するよう金融機関は求められるようになりました。

    経営者保証に関するガイドラインは、経営者の個人保証についてこう定めています。

    (1)法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと

    (2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること

    (3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
    などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援します。<中小企業庁/経営者保証に関するガイドラインの概要

    https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/

    したがって、会社の場合なら社長も保証人になりません。つまり経営者が、経営する事業の保証人にならなくても融資するという意味なのです。

    第三者保証についても、「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行を確立する」と金融庁監督指針にあり、原則として第三者保証は求めないで融資するよう金融機関は検討しなくてはいけません。信用保証協会においては第三者保証人を求めることを原則禁止とするようになりました。

    また、個人事業主の場合は事業イコール本人なので、経営者の保証がない(というより自分で自分の保証はできない)こと、また、妻や子供も第三者と考えられるのでその保証もなしで融資を検討するという意味になります。

    民法改正による保証人の歯止め

    「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日に施行されました。

    極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約が無効となるなど、保証人の保護が拡大される内容となっていますが、事業用融資に関しては、個人が保証人になる場合にいくつかの歯止めがかけられるようになりました。

    この個人というのは、

    1. 主債務者が法人である場合 その法人の理事,取締役,執行役や,議決権の過半数を有する株主等
    2. 主債務者が個人である場合 主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や,主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者

    以外の個人です。

    つまり、基本的には所謂「第三者」が保証人となる場合を指します。

    このような、経営にあまり関わりのない人が保証人にされて破綻することを防ぐために、以下のような一定の歯止めをかけようとするのが今回の民法改正です。

    1. 公証人による保証意思確認手続
    2. 保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務
    3. 主債務の履行状況に関する情報提供義務
    4. 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務

    このように、経営と関わりのない個人については今回の民法改正で保護し、会社とほぼ一体となっている経営者については、「経営者保証に関するガイドライン」によって保護することになると理解して貰えればと思います。

    参考資料:http://www.moj.go.jp/content/001254262.pdf

    それでも第三者保証が求められるケースとは?

    妻や子供など家族も第三者だから保証は求められないと書きましたが、例外的に保証人にしても良いとされるケースがあります。

    <例外的に保証人になれる人とは?>

    • 事業に従事する個人事業主の配偶者(事業専従者など)
    • 実質的な経営者

    繰り返しますが、たとえ家族でも第三者と考えるので個人事業主の保証人にはなりません。

    あくまでも、

    「実際に仕事を切り盛りしているのは配偶者」

    「事業の名義は父親だが、実質的な経営者は息子」

    など第三者に見えて「真の経営者」である場合は例外的に保証人になるといった意味です。このような人は上記の民法改正でも保護の対象となっていません。

    ただし原則としては個人の保証を求めないという方針なので、事業の経営状態が良好なら、必ずしも上記例でも保証人とはしない場合もあります。

    このような第三者保証の例外は、金融庁の監督指針信用保証協会のガイドラインにおいても明記されており、実務的な面から求められていることでもあります。

    実際に多くの個人事業主が配偶者を保証人にすることで融資を受けているので、配偶者を第三者をみなし、連帯保証人とすることを原則禁止としてしまうと、今後融資が受けられなくなってしまうのではないか、という懸念があるということですね。

    卵が先か鶏が先かという議論に見えますが、例外的に第三者保証が求められるケースは実務的に存在していると覚えておいてください。

    経営者保証が不要となる条件

    「『経営者保証に関するガイドライン』に則って個人保証は付けないでくれ!」と言いたくなるかもしれませんが、いきなり銀行に向かってこのような要求をするのは無茶です。

    やはり銀行は銀行なりの事情がありますので、事業者としてもそれなりの対応をする必要があります。

    例えば、某メガバンクでは経営者保証を求めない要件を以下のように定めています。

    1. 法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること
    2. 法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えないこと
    3. 法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得ること
    4. 法人から適時適切に財務情報などが提供されていること
    5. 経営者などから十分な物的担保の提供があること

    また、保証契約締結時には以下のように、必要性や適切な保証金額を定めることを表明しています。

    1. 保証契約の必要性
    2. 保証の必要性が解消された場合に保証契約の変更・解除などの見直しの可能性があること
    3. 原則として保証履行時の請求は、一律に保証金額全額に対して行うものではなく、 保証人の資産状況などを勘案した上で、履行の範囲が定められること

    何れにしても、それなりの要求はあると覚悟しておいた方が良いでしょう。

    個人保証の代わりとなる融資手法もある

    個人保証を付ける代わりに以下のような対応がとられた事例もあります。

    1. 売掛債権を担保として対応、ABLを活用
    2. 今後のモニタリング強化
    3. 解除・停止条件付保証契約の活用
    4. 金利の上乗せ

    このように、一律に個人保証を求めず、代替えの融資手法を模索する流れもあります。

    まとめ

    経営者保証も第三者保証も過度な保証に頼らないで融資するよう、銀行が求められています。これは不動産など担保も同様で、銀行はこれまでのように

    「保証人が金持ちだから大丈夫」

    「担保があるから、会社が少々ダメでも融資して良い」

    といった考えが通用しなくなっています。

    そこで、事業の将来性や成長性を見極める力が銀行員に求められるようになりました。これが「目利き力」と言われるもので、融資に携わる銀行員が磨き上げなければいけないスキルです。それと同時に、融資を受ける側も保証人や担保に頼ってお金を借りることはできなくなりますので、自助努力が必要になってくるのです。

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