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借入金を返せなくなったらどうする?どうなる?(5)~任意売却と競売(けいばい)

事業資金の結末と題してここまで説明してきましたが、今回の任意売却競売という不動産処分がいろいろな意味で「最後の手段」、しかしできれば選択して欲しくない手段です。

今回の内容をぜひ参考にしていただき、万一決断されるときには慎重に慎重を重ね考えてください。

目次

任意売却と競売、それぞれ必須のプロセスがある

任意売却、競売(けいばい)にはそれぞれ必須のプロセスがあり、この手順を踏まないと売却できません。

それぞれの手順は以下の通り、内容と注意点を一つずつ説明していきます。

(競売は一般にはキョウバイですが、銀行や裁判所ではケイバイと読みます)

<任意売却、売却までの手順>

  • 手順1.銀行(債権者)に任意売却を承諾してもらう
  • 手順2.専門業者への依頼
  • 手順3.任意売却をする

<競売、売却までの手順>

  • 手順1.強制執行措置(差押(さしおさえ)、立ち退(の)き)
  • 手順2.入札(不落(ふらく)落札(らくさつ)競落(けいらく)
  • 手順3.不動産の処理(お金のやりとり)

任意売却の手順1.銀行(債権者)に任意売却を承諾してもらう

まず任意売却の意味は次の通りです。

「担保不動産処分(任意売却、競売)担保にしている不動産を、買主を探して一般的に良くある売買として扱うのが任意売却」「「任意売却の場合タテマエ的には債務者が自分で土地を売り借金返済に充てる」(第4回より引用)

一般的に良くある売買と書きましたが、一つだけ大きな違いがあります。それは黙って勝手に売れないということです。任意売却は、競売ほど切羽詰まってはいない状態(詳細は競売で説明)ですが、売却するときには債権者の許可が必要になります。

これは当たり前のことですが、借金のカタになっている不動産をそのまま買う人はいません。不動産の売買契約書や重要事項説明書(不動産の説明書といったもの)には「この不動産は〇〇銀行の担保になっていますが、売却の時までに担保は解除します」といった意味の記載があります。

<注意点>

任意売却の大前提は「売ったら借金を全額返せる」というです。売っても借金が残るなら債権者は承諾してくれません。(*借金が残っても、引き続き返済していく約束をすれば特別に許可する場合もあります)

任意売却の手順2.専門業者への依頼

債権者から承諾してもらったら、次に必要なのは取り扱ってくれる専門業者を探すことです。

一般の売買なら個人同士で売り買いすることが可能です。しかし任意売却では、必ず宅建資格のある専門業者に依頼しなければいけません。これには債権者がしっかり状況を把握できるという意図もあるため、銀行から業者を紹介してくる場合もあります。

<注意点>

専門業者に依頼をすると、チラシや新聞広告、ネットなどを通じて広く買主を募集します。不動産の場所や写真も公開されますので任意売却していること、つまり困っていることがバレてしまう可能性があります。

任意売却の手順3.任意売却をする

債権者が納得する値段で買ってくれる相手が見つかると、いよいよ任意売却できることになります。

融資している銀行の応接などで手続きするのが一般的ですが、買主が住宅ローンを組む場合は先方の取引銀行で手続きすることもあり、その場合は融資している側の銀行員が一緒についてきます。

契約書類に署名捺印をして、売却代金や手数料などお金のやりとりが済み、融資側の銀行員は融資が返済になったことを確認して、担保契約書類を渡します。そして登記を行なう司法書士が書類を受取り、不動産の所有権(名義のこと)変更や担保の抹消を法務局に提出します。

これが任意売却一連の流れです。

<注意点>

これは以外と良くあることですが、当日に都合がつかなくなり、本人が来れなくなると売却は中止になります。

社会人の常識でもありますが、特に不動産取引でドタキャンは許されません。

また実印や権利証などを忘れる人も多く、これも最悪は取引が中止になりますので注意が必要です。

買う人にとって、一生に一度あるかないかの大きな取引です。上記したようなトラブルがあれば不信感を与えてしまい、売却自体が流れてしまう可能性もあります。(私が買主なら、きっと辞退すると思います)

競売の手順1.強制執行措置(差押(さしおさえ)、立ち退(の)き)

「強制執行で不動産を売却するのが競売(けいばい)です」

「差し押えとは、借金(債務)の返済ができなくなった、あるいは督促を無視したり、所在不明になったりなどで融資したお金(債権)が回収できないと判断した債権者(銀行や金融業者)が、債務者の財産を勝手に処分されないように、裁判所に申し立てることです」

「不動産も差し押えすることができますが、法律により生活に必要な最低限の財産は差し押えできないことになっているので、自宅しか不動産がない普通のサラリーマンではできません。」(第4回より引用)

上記は競売と強制執行についての一般的な内容ですが、融資額が多額だったり債務者と債権者の関係が険悪になったりすると不動産を競売する場合があり、その時は強制執行措置を講じます。

差し押さえは上記の通り、そのあとで不動産の名義を銀行に変える(つまり銀行が不動産を取上げる)ことはあまりしません。このあとの競売で手放すことになっているので名義変更する意義があまりないからです。

また、差し押えになるとその不動産からは立ち退かなければなりません。それが自宅だとしても同じです。

競売の前には、不動産を誰も使用(占有(せんゆう)と言います)していない状態にしなければならないからです。

<注意点>

街中で「管理地」などという看板を見たことがあると思いますが、差し押えになった不動産もこれと同じで原則立入禁止です。銀行の同僚から聞いた話なのですが、立退きする際に置き忘れたモノを取りに行こうと、かつての所有者が立ち入って警察沙汰になったそうです。差し押えのあとは「保全」といって、その状態を変えてはいけないことになっています。悪気はなくても、許可を得ず立ち入ることはできませんので注意が必要です。

競売の手順2.入札(不落(ふらく)、落札(らくさつ)、競落(けいらく))

競売の流れはまず広告して入札希望者を募集します。新聞の日曜版などに「競売物件」と掲載されることもありますが、インターネットで募集するのが一般的です。

入札に参加するのは競売物件を専門に扱う不動産業者などで、相場観や経験が豊富なプロばかりです。

業者も商売ですので、少しでも安く買って高く売りたいので、入札価格は相場よりかなり低くなります。

そして、その中でも一番高額の提示をしたところが購入する権利を得るという仕組みです。

入札(競争入札とも)して競り落とすことを落札あるいは競落(けいらく)と言い、こうした物件を別名競落物件とも呼んでいます。競売物件よりはソフトな印象がありますが、意味は変わりません。

<注意点>

入札をする時には最低ラインの価格(最低落札価格)が設定されますが、入札がその価格以下の場合は不落といって誰も購入できません。この場合後日再び競売募集があります。しかし何度も不落が続くと競売が取りやめになる場合もあります。

競売の手順3.不動産の処理(お金のやりとり)

業者が競売に参加する際には、あらかじめ保証金を支払います。これは一般の不動産売買での手付金に似たもので、売却基準価格(競売公告で目安として記載された金額)の10分の2以上の金額を前もって差し出さないと競売に参加できない仕組みになっています。落札できなかった場合や不落となった場合には保証金は戻ってきます。

いっぽう落札(競落)した業者は、保証金を差し引いた不足金額を決められた期日までに支払うと所有権移転できる書類を受取ることができます。

<注意点>

参加するのはプロの業者と書きましたが、彼らにとって競売物件は商品、競売は仕入のようなものです。

安く買って高く売りたいことに加え、少しでも早く売りさばきたいという意向もあります。商品なので、売れ残れば不良在庫になりかねない、そういった意味で競売物件は「生(なま)もの」なのです。

業者によっては競落することを見越して、あらかじめ購入希望者と売買契約を結んでおき、競落できたら業者に所有権移転しないで、代金と引替えにそのまま買主に名義変更する場合があります。これを「中間省略」などといいますが、この中間省略では悪徳業者に代金をだまし取られるなど犯罪やトラブルも多いので注意が必要です。もちろん正しい取扱のもとで中間省略されれば問題はありませんが、やはり通常の取引以上に、慎重になる必要があると言えます。

まとめ~任意売却と競売、その結末について

競売の場合、差し押えなど強制執行措置をする頃には債務者と接触はありません。裁判所を通じてただ粛々と手続きが進んでいくだけです。

しかし任意売却の場合は様子が違ってきます。

例えば買主が住宅ローンを組んだ場合は先方の銀行で売主(債務者)と待ち合わせて売買に立ち会います。売買が終了すると、代金のほとんどはまさに「右から左へ」債務者の目の前を通り過ぎていき、借金を返済して終わりとなります。借金がなくなったとしても、自宅あるいは店舗・工場など大事な不動産を手放して、その場で泣き崩れる人もいれば、どこ吹く風といった感じの人など反応は十人十色です。

ただ、買主のほうを見れば不動産を手に入れ緊張しながらも喜びの表情を浮かべています。売主も何年か前に自分が購入したときにはこんな顔をしていたのだろうか?と思うと複雑な気持ちになる人も多いかと思います。

任意売却は最後の手段でありできれば選択して欲しくない手段と申し上げたことをまとめとします。

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