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粗利率を高めることで資金繰りを良化させる
一口に会社の「利益」と言っても種類があります。決算書を見るといくつも出てきており、基本的に①売上総利益②営業利益③経常利益④税引前当期純利益⑤当期純利益の5つがあります。それぞれに算出方法があり、それぞれに意味があります。
その中で、基本かつ重要なのが①売上総利益(粗利益)と言えます。粗利益は、「売上高-売上原価」の数式で算出できます。売上原価=”売上を上げるためのコスト”であり、業種によって様々です。粗利益は売上原価という最低限のコストを差し引いた利益であるため、売上原価に対してどれだけの利益を上げているのか、つまりその会社は、どれだけ商品の価値を高めることに成功しているのかという指標にも繋がるため、粗利益は重要視すべき項目になります。
1個1万円のa製品をの売上原価が、A社8千円、B社5千円とすると、粗利益は、A社:10,000-8,000=2,000、B社:10,000-5,000=5,000となります。
仮にA社とB社の一般管理費などが同じ場合、最終利益の差は売上原価の差となり、最終的にはキャッシュとして会社に残ることになります。つまり、粗利率が高ければ高いほど、資金繰りは良化するのです。
粗利益を把握する事で、会社の扱っている製品、商品、サービスがどれだけ利益を生み出し、キャッシュを創出しているかが分かるのです。
A社は、①売上の改善、②売上原価を下げるのどちらか、もしくは両方の対策を実施する事でB社に対抗するしかありません。
今回は①売上の改善方法について述べます。
売上の改善による粗利益率改善
売上=「売上単価×個数」です。単価100円の製品を100個売れば売上は10,000円になります。ここから単価を150円にする、個数を130個伸ばす等を実施できれば、売り上げを伸ばすことができます。
しかし、粗利益は売上から原価を差し引いた金額になりますので、伸びた売上以上に原価がかかってしまったら意味がありません。確かに売上は会社にとっての収入源なので、それがなければ会社は存続できず、売上高が重要なのは言うまでもありませんが、いくら売上が大きくても、粗利益の金額が少なければ、会社に資金は残りません。
ですから、粗利益率を上げるために、売上高のトップラインを上げていくことが重要なのです。
事例1 製造業A社の場合
A社を例に挙げると、当社も最近3年ほど前まで毎月の資金繰りに困窮しており、粗利益の段階でマイナスといった月もあるほどでした。販売先が6社ほどあったのですが、しっかりと粗利率が把握されていませんでした。
そこで、販売先毎に粗利率が分かるようにしました。
販売先別粗利率一覧
(単位:万円)
売上高 | 原価 | 粗利益 | 粗利益率(%) | |
A社 | 1,500 | 900 | 600 | 40% |
B社 | 1,000 | 950 | 50 | 5% |
C社 | 650 | 600 | 50 | 7.6% |
D社 | 100 | 120 | △20 | ― |
全体 | 3,250 | 2,570 | 680 | 20.9% |
こうしてみると、製造業の粗利益率の平均は約20%にも関わらず、平均を大きく下回る販売先が幾つかあり、マイナスになっている販売先すらあることが分かりました。
このように、販売先別に粗利率を見える化することだけで、問題点が見えてくることがあります。
このように、問題点が明らかになったことで、その内4社について以下の通り対応を実施しました(数字は実際の数字ではありませんが、割合的に同じです)。
販売先別の改善策
A社:業界平均を大きく超える粗利益率のため、特に対応せず(売上単価が高い)。
B社:売上単価(25万円)を上げる事が出来なかったが、管理コストが他社と比較し低く、また個数を増やすことが可能(40個→50個)であったため、個数を増やし、粗利を確保。
C社:B社と逆に個数を増やす事はできなかったが、単価上げの交渉を実施し、原価を上げずに売上増加を図った。
D社:売上を大きく見せたいがために継続取引していたが、原価以外のコストやスペースを占有していたため、情報交換は継続する事としながらも、受注お断り。
その結果、以下のように粗利率が大きく改善しました。
販売先別粗利率一覧(改善後)
(単位:万円)
売上高 | 原価 | 粗利益 | 粗利益率(%) | |
A社 | 1,500 | 900 | 600 | 40% |
B社 | 1,250 | 1,187.5 | 62.5 | 5% |
C社 | 700 | 600 | 100 | 14.2% |
D社 | 0 | 0 | 0 | ― |
全体 | 3,450 | 2,687.5 | 762.5 | 22.1% |
改善前との差 | +200 | +117.5 | +82.5 | +1.2ポイント |
実際にA社が行った対応の結果として、業績も向上し、資金繰りも改善しました。
この事例は、顧客別(セグメント別)に収益状況を把握し、粗利率が低い取引先からは撤退若しくは値上げ交渉をするという地道な売上UP対策の重要性が良く分かる事例でした。
まとめ
粗利益改善のために新たに取引先を開拓して売上を増加させるのも手ですが、現状の売上の分析を行い、対応する事が粗利益改善の第一歩に繋がります。
粗利率の改善に魔法のように効く改善策はありません。
まずは、販売先、商品ごとに現状の粗利率を視える化してみましょう。そこから、地道に販売先と交渉する、商品の値上げを検討する、などを行っていきましょう。
次回は、粗利率を改善するための記事二弾目、製造原価を下げるです。