今回は「保全」について説明します。
銀行員は日常的に使っている「保全」という言葉も、ひとことでズバリ説明するのはむずかしいのですが、なるべくわかりやすく説明していきますので、参考にしてください。
目次
保全とは?
保全の意味は「保護して安全であるようにすること」といったところです。
たとえば「ビルの保全」「環境保全」といった使われ方をします。
ちなみに似たような保守との違いは、
- 保全は完全な状態を保つこと
- 保守は正常な状態を保てるように守ること
といったニュアンスの違いがあります。
保全になると、完全な状態あるいは最初の状態を完璧に維持する、といった意味が強くなります。
融資の保全は「完全に保つ手段」
銀行融資における保全とは、融資を完全な状態で保つための手段を指します。
融資の完全な状態とは、貸したお金が全額回収できることです。
業績が良好な会社なら、毎月返済が予定通り進んで最後に完済となります。
保全は「保証」と「担保」2種類
しかしながら、すべてがそうした理想的な完結を迎えるとは限りません。業績が悪化して、返済できずに倒産してしまう場合さえあります。そうなったときに、貸したお金を回収する手段が保全であり、その手段は保証と担保の2つです。
ここまで整理すると
- 融資の保全とは、融資を完全な状態で保つための手段
- 融資の完全な状態とは、貸したお金が全額回収できること
- 保全の手段は保証と担保
このように表現できます。
保全の手段その1「保証」
保証とは、保証会社や信用保証協会など団体(会社)が融資の保証をすることです。
一般的にお金を借りるときには保証人が必要です。
保証人は、借りた人が返せなくなると原則として全額返済する義務を負う者を指します。また生きた人間だけでなく、会社(法人)が保証人になる場合もあります。
保証会社も会社として融資の保証をすることができ、その対価として「保証料」などの手数料を受け取ります。
住宅ローンにおける保全の手段でもある
ちなみにこの形式は住宅ローンと同じです。
住宅ローンでは保証会社が、長期間の融資を保証してくれるので、銀行は融資できます。そして、その対価として保証料を支払うのです。
返せなくなったら「代位弁済」になる
住宅ローンでは、借りた人が返せなくなると保証会社が融資残額の全額を、一括で銀行に支払います。そのあとは、保証会社に返済していくことになります。
これを代位弁済(代弁)といい、事業資金もまったく同じ、代位弁済という言葉も一緒です。
保証の代表格は信用保証協会
事業資金の保証をする代表格は「信用保証協会」です。各都道府県にあり、「中小企業信用保険法」といった法律で定められた公的な機関です。
融資を保証して、対価として保証料を支払うのは住宅ローンの保証会社と同じです。
なお、保証料は、それなりの金額になりますので、支払いのタイミングを知っておかないと困ったことになります。
例えば、創業融資を受ける場合、基本的には信用保証協会が保証するスキームとなりますが、融資実行時に信用保証料を払わなくてはなりません。
金額としては、条件により様々ですが、500万円の融資で調達する場合は、50万円程度必要となってきます。勿論、利息は別途支払う必要があります。
運転資金として想定していた資金が保証料で吹っ飛ぶことにもなりかねませんので、資金繰りは綿密にしておく必要があります。
気になる方は、信用保証料の簡易シミュレーションで計算してみて下さい。
一方で、信用保証協会を利用することで、低利かつ固定金利など有利な条件で借り入れすることができるのも事実です。最近では、コロナウイルスの感染拡大による実質無利子融資が代表的です。
信用保証協会は「プロの保証人」
信用保証協会は公的機関ですが、その仕組みは住宅ローンの保証会社と同じで、見方を変えれば「お金をもらって保証するプロの保証人」とも言えます。
信用保証協会が保証することで、中小企業や創業して間もないような、信用力が乏しい事業者にも融資をしやすくする効果があります。
そもそも、これこそ信用保証協会が作られた目的の1つであり、信用の乏しい事業者の「信用補完」の役割を担っているのです。
なお、繰り返しになりますが、信用保証協会付で融資を受けた場合、銀行への返済ができなくなった後は、信用保証協会に対して返済していくことになります。
保全の手段その2「担保」
担保とは、将来生じるかもしれない不利益に備えて、それを補うことを保証すること、または保証するモノと言えます。
例えば、「家屋敷を担保に入れる」など聞いたことがあるかもしれません。
また、物事や発言などを保証するモノともいえます。例えば、「○○議員の公約を担保するものはない」というような使い方です。
融資の担保は、融資を保全するモノ(物)、そのものであり、不動産、動産、預金、生命保険などが該当します。
担保には「抵当権」と「質権」がある
担保にする方法には、抵当権と質権という2種類があります。
不動産などは「抵当権」
土地や建物などの不動産、あるいは機械などの動産は、実物も大きく、当然ながら動かすのが大変です。そこで実物はそこに置いておき、担保にするのが抵当権です。
担保にしたことを法的に証明するために、法務局で抵当権を登記します。
ちなみに根抵当権は「極度の範囲内で反復利用できる抵当権」といった意味で、厳密には抵当権に含まれる、という解釈が一般的です。銀行や法律の場面では抵当権という呼び方に統一されますので、参考に覚えておいてください。
預金や生命保険などは「質権」
預金通帳や生命保険証券など、人の手で簡単に持ち運べるようなものは、担保として現物を預かりますが、これを質権と言います。
預金通帳や保険証券などは、取引があることを証明するだけの、ある意味紙切れなのですが、現物を預かることで勝手に処分できないようにしてしますわけです。
担保にしたことを法的に証明するために、質権の場合は公証人役場で確定日付を取得します。手続きの意味は、抵当権と同じです。
返せなくなったら担保権が行使される
返せなくなった場合、不動産なら売却、預金や生命保険は解約して換金し、融資の回収にあてます。
このことを難しく表現すると「担保権を行使する」と言います。
簡単に言うと、銀行に家やお金を取られてしまうということですね、
まとめ~保全はあくまで補完と考えたい
従来、銀行の事業資金融資では保証や担保を重視し、もっと言えば保証や担保があるから融資したという面もありました。
しかし、そうした銀行の姿勢を改めるよう金融庁から指示されていて、現在銀行では保証や担保に頼らず、企業の財務内容や将来性を重視して融資すべしという方向に向かいつつあります。
融資を返済するのは企業の実力であり、保証や担保といった保全はあくまで補完的な役割である。
理想論かも知れませんが、銀行と事業者双方が努力してこうありたいものです。