企業経営ではいろいろな支払があります。必要経費の文字通り、経費はその代表例ですが、経費のなかにも絶対支払を遅らせてはいかないものがあります。
信頼がなければ経営はできません。信頼確保のためには絶対外せない支払があるのです。
まず、仕事相手への支払、これは別格です。仕入先、受注先、外注先などさまざまな相手があって事業は回っているのですから、こうした相手への支払は絶対遅らせてはいけないことは言うまでもないことです。
今回は、それ以外にも絶対外せない、絶対支払を遅らせてはいけないお金について、なぜ遅らせてはいけないのか?についてもお話ししたいと思います。
これは資金調達で銀行と付き合う上で影響することなので、ぜひ参考にしてください。
目次
絶対支払を遅らせてはいけないお金と、その理由
絶対支払を遅らせてはいけないお金で、代表的なものは次の通りです。またそれぞれ説明と、なぜ遅らせてはいけないのか?その理由も説明します。
<絶対支払を遅らせてはいけないお金>
- 給料、人件費
- 税金、社会保険料
給料、人件費
なにも教訓めいたことを言うつもりはありませんが、従業員や派遣社員、アルバイトパートさんなど働いている人へ「給料を払えないような会社なら事業をやめたほうが良い」これは銀行で先輩から教わる格言のひとつです。「企業は人なり」という言葉もある通りです。
なぜ遅らせてはいけないのか?
給料、人件費を一日でも遅れさせれば従業員の士気、意識にも影響します。皆それぞれ生活があり、給料はその根源です。従業員は会社に労働を提供し、その見返り(対価)として給料をもらっています。
「もらう」と言っても施されているわけではなく、当然の権利で受け取っていることを忘れてはいけません。
もちろん、本当にギリギリの状態で従業員を集めて給料支払が遅れることを社長が土下座して頼み込む、と言った光景もあるでしょうが、これはやはりドラマの世界と考えるべきです。
経営者といえども、従業員の当然の権利を侵す権限はありません。
また、給料支払が遅れるような事態なればその情報はあっという間に関係者のあいだに拡がるものです。信用は失墜し、事業は遠からず破綻してしまうでしょう。
私の経験談で、資金繰りに困ってはいたのですが、給料を払えない状況にはなっていない会社があり、他の支払をするため給料を後回しにしたため、従業員から経営の不安が広まり結果的に破綻してしまいました。
税金、社会保険料
税金(税金には厚生年金も含む)や社会保険料の支払も絶対に遅らせてはいけません。
納税は国民の義務です。義務を果たさないと(果たせないと)ペナルティーがあります。
ペナルティーは「差押」と「信用失墜」です。
なぜ遅らせてはいけないのか?
納税が遅れることを「滞納」といいます。要は遅れていることですが、「滞納」は表現が特別なだけでなくきびしいペナルティーがあります。それが差押(滞納差押)です。
税金には納期があり、それを守らなければ即「滞納」になります。以前は国、市町村などお役所的に鷹揚だったのですが、昨今税金の取り立ては厳しくなりました。最近では外部への委託(こうした業者をサービサーと呼びます)も増え、その取立て方法もより厳しくなっています。
差押とは滞納している税金を回収するため、資産(会社なら事務所や工場など会社名義の不動産や預貯金などが代表的)に差押の登記をして「押さえる」のが差押です。
差押があると、長期化すれば立ち退かなければならず、最後には不動産や預貯金は税金として取上げられてしまいます。新聞の休日版に「滞納処分」などと税務署が不動産競売の公告をすることがありますが、これらの不動産は税金滞納で取上げられた不動産がほとんどです。
また預金が差し押えられると、銀行で融資を受けている場合即刻全額返済を求められる場合があります。
預金が差し押えられたら融資は全額返済が必要という条項は、銀行との融資基本契約(銀行取引約定書)に記載されていますので注意してください。
銀行が即刻融資返済を求めるのは、納税ができない状態は深刻な信用失墜に当たると判断するからで、この場合全額返済させてもそれは「貸し剥がし」とは違います。
このように、信用の失墜を招きますので税金や社会保険料の支払は絶対に遅らせてはいけません。
なお、口座が差し押さえられた、工場が差し押さえられたと言って、差し押さえの状況を解消せずに、新会社で事業をすることはできません。第二納税義務という義務の存在があり、税務署は必ず新会社の口座も差し押さえます。この点、金融機関からの融資とは根本的に異なりますので注意が必要です。
まとめ
絶対支払を遅らせてはいけないお金として給料と税金についてお話ししました。この2つを遅らせていけない理由についても説明しましたが、なにより企業として信用がなくなったら終わりだから、ということはぜひ覚えておいてください。
例えば、融資返済もやはり絶対遅らせてはいけないお金で、理由の詳しい説明は不要でしょう。この融資返済も、もし税金支払に優先させたいと言われれば、銀行は認めます。もちろん喜んで、ということではありませんが、納税という国民の義務を果たすことを銀行が阻害した(融資返済を求めるのは当然の権利なので阻害したと言われることはないのですが)と取られる可能性もあるので、銀行は慎重に対処しなくてはいけないからです。また、滞納税金が原因で不動産が差し押えられて、それが銀行の担保だった場合いろいろ面倒になるので、その点からも銀行融資返済は納税だけには先を譲ります。これもぜひ覚えておいてください。