「手形割引最大のリスクは不渡り」
手形割引とは?その特徴と注意点ではこう結びました。
「では不渡りってなに?」
「不渡りにはどんなリスクがあるの?」
今回は手形割引の続きとして、この不渡りについて説明します。
目次
依然として手形の不渡りはある
商慣習の変化が進み、手形や小切手の取扱は減少傾向にあります。ニュースなどで不渡りという言葉を聞くことも減っています。しかし不渡りはなくなったわけではありません。破綻した企業がたまたま手形を振り出していなかった、あるいは破綻、倒産で意味が伝わるので不渡りという言葉が出てこないだけなのです。
今は手形に触れることは無くても、いつか接する可能性もありますし、また不渡りに遭遇する危険性もあります。ぜひ今回の説明を参考にしてください。
不渡りとは?
手形とは「あらかじめ期日を定めて支払う約束をした証券」(小切手も同じ)です。
この手形が、期日になっても資金化(決済と言います)できないことを不渡りと言います。
イメージするため、まず手形が振り出されてから資金化されるまでの流れを説明します。
手形が資金化されるまで、または不渡りになるまで
不渡りを理解するために、手形が資金化されるまでの流れをおさらいしておこうと思います。
1.手形の振り出し
取引をした代金支払のため手形を渡す
2.手形の資金化
手形を受け取った人(受取人)には資金化する選択肢があります。
- 取立:手形を期日まで持ち続け、提示期間(注1)までに取引銀行に持ち込む
- 譲渡:手形に裏書(注2)をして他の人に渡す(回し手形、廻し手形ともいう)
- 割引:受取人が割引を依頼する。受取人=割引依頼人となる
特に割引については融資と同等の資金調達の方法として、頻繁に活用されています。
3.手形の決済
手形交換所を経由し、手形を振り出した人(振出人)の取引銀行に手形が戻ってきます。
そして振出人の口座から出金され、
- 取立:受取人口座へ入金される
- 譲渡:最後の受取人が資金を受け取る(注3)
- 割引:割引依頼人口座へ入金される
そして、手形の不渡りとは、上記(注3)で期日に資金化(決済)されない場合を指します。
なお、不渡りになると最後の受取人が、自分より前の人(裏書人、裏書譲渡人)に請求する権利がありますが、ここは本文の後半「訴求権」でくわしく説明します。
(注1)提示期間とは手形を請求できる期限のこと。通常は手形支払期日+2営業日(銀行が営業する日)
(注2)譲渡手形を受け取った人が次の受取人となり、ここでも2.手形の資金化の選択肢から選ぶことになる。また譲渡すれば次の受取人へ、というように連続する場合もある
不渡りの種類~不渡りとなった理由により名称が異なる
不渡りには次の種類があり、その理由で「0号不渡り」「1号不渡り」「2号不渡り」の3つに区別されます。一般的に不渡りと言えば「1号不渡り」のことを指します。
ちなみに1号、2号とは銀行などが作成する報告書(不渡届)の種別のことで、「0号」に該当する場合は不渡届を作らない(つまり報告がゼロ)のでこのように呼ばれています。
それぞれの不渡りについて説明していきます。
0号不渡り
手形の形式不備、提示期間(前述)が経過したなど振出人の信用に関係ない場合を指します。
手形の提示期間を忘れた場合もこの不渡りに当たります。「そちらが忘れていたんだから知らないよ!」とは言えないので、もう一度手形を振り出すこともあります。
もっとも提示期間を過ぎた手形を持ち込まれ、取立してしまった場合は銀行の落ち度となるので普通は窓口で「提示期間過ぎてますけど・・・」と言われて気づくケースが多いです。
1号不渡り
資金不足、口座取引なしなどの場合を指します。事業者にとってある意味最も身近かつ、恐ろしいケースです。
手形を振り出したあと口座(当座預金)を解約したり、口座がないのに手形を振り出したりした場合、それが意図的なら犯罪となる可能性があります。
2号不渡り
偽造、詐欺、盗難、紛失などの手形だった場合を指します。
手形を盗まれたり失くしたりした場合は、取引銀行に連絡して手形を使えなくしなければなりません。
銀行に連絡が行っていれば、後日その手形が割引、取立など銀行に持ち込まれると即座に盗難(紛失)手形だとわかる仕組みになっています。
不渡りとなった場合、受取人はどうすべきか?
手形は裏書きして次の人に譲渡できます。
万が一、手形が不渡りになった場合、最後の受取人はどうしたらよいのでしょうか。
勿論、泣き寝入りになる訳ではありません。
最後の受取人は、自分より前の人(裏書人、裏書譲渡人)に請求する権利があります。
これは「訴求権」と呼ばれています。
訴求権には強い効力があり訴求、つまり「あなたが払ってよ!」と言われたら拒むことはできません。これがあるから手形が流通しているとも言えます。
訴求には2種類あります。
- 自分に手形を渡した人、つまり直前の裏書人に請求する場合
- 直前を飛ばし、支払能力がありそうな人に請求する
イメージしにくいと思いますので、例として
振出人→1番目「1番商事」→2番目「2番商店」→最後「ショップ斉藤」
とします。
このケースで不当たりが起きた場合、「ショップ斉藤」が「2番商店」に請求するのが一般的です。つまり上記の1のケースですね。
これは直接手形をもらった人に請求するのが合理的だからです。
上記2番目のケースは、「ショップ斉藤」は「2番商店」にお金がなさそう、と考え「1番商事」に請求(訴求)する方法です。
しかし「ショップ斉藤」は「1番商事」と取引がない、または相手が遠方な場合などもありこちらはあまり現実的とは言えません。
このようにやはり直前の人に訴求する1のケースが合理的です。
また手形を渡した道義的な責任から直前の人も何とかしてお金を払おうとするものです。
この場合、お金と引き換えに手形をもらいます。これを手形の買い戻しといい、訴求権は別名「買戻請求権」とも呼ばれます。
さて、このように訴求権が手形の怖いところですが、「ショップ斉藤」が銀行に割引いてもらっている場合はどうなるでしょうか?
これは非常に大きな問題となりますので、以下で解説致します。
手形の最大リスクとは「銀行の買戻請求権は絶対」であること
上記の「ショップ斉藤」が手形を銀行に割引いてもらっている場合に、不渡りが起きた時に銀行から手形の買戻しを求められるのは、割引依頼人の「ショップ斉藤」となります。
手形割引した場合、銀行が手形の「最後の人」になります。この場合、銀行が買戻しを求めるのは割引依頼人だけです。通常、その人を飛ばして他の裏書人に銀行が買戻し請求することはありまん。
銀行から買戻し請求されると、当日中にお金を支払わなければいけません。頼めばなんとか免れるとか、待ってもらうなどはあり得ません。
また手形割引する人は、その銀行で融資取引しているのが普通ですが、不渡り手形が買戻しできないと他の借入にも影響が出てきます。
銀行の融資は毎月決まった日に、決まった金額の元金と利息を、キチンと支払っていれば、返済期間が5年なら5年間ゆっくり返済していけます。このことを「期限の利益」といいます。
割引した手形が不渡りになり、しかも買戻しができなかった場合は、この期限の利益が一瞬にして失われます。これを「期限の利益(の当然)喪失」といい、分割返済中の借入は全額速やかに返済を求められる、つまり「今日中に、全部耳をそろえて返してよ!」と言われてしまうのです。
このことは「銀行取引約定書」(融資取引を始めるときに、融資の基本事項を取り決めた書類)にも書かれています。
手形割引する人は、資金が必要で、しかも手形の支払期日まで待てないから割り引きしたのです。
基本的には、割引手形が不渡りになっても、買い戻すお金を持っていない会社が多く、こうした」会社は即座に行き詰まってしまうのが大半です。
このように手形の裏書と割引が同時に行われていると、資金繰り上非常にリスキーであることがお分かりいただけたかと思います。
だからと言って割引を止めるというのは非現実的です。それよりも取引先の与信管理をしっかりするということが重要となります。
不渡りと訴求権、そして買戻し請求など「手形は割り引いたら終わり」ではないことはぜひ覚えておいてください。