コロナウイルス関連実質無利子融資制度では借換えができます。
今回は実質無利子融資制度でできる借換えの概要と注意点を説明します。
目次
借換の概要と注意点
借換えとは自分が返済している融資を、新しい融資に塗り替えること、つまり「借入のリセット」です。
借入を塗り替える方法にはもう一つ「リスケ(リスケジュール Reschedule)」があります。
両者の違いは「前向きか?後ろ向きか?」「融資を返せるか?返せないか?」です。
- 借換とは?⇒前向き ”返せる人”が融資を塗り替える方法
- リスケとは?⇒後ろ向き ”返せない人”が融資を塗り替える方法
詳しい両者の違いについては次項で触れますので、まず借換えについて説明することにします。
借換のメリット・デメリット
新しい融資を借りて、現在返済している融資(以後「従前の融資」とします)を返済するのが借換で、借換の特徴は以下の通りです。
- 借入のリセット~従前の借入は「無かったこと」になる
- 増額借換え~増額して、しかも返済が楽になる(メリット)
- 返済の「やり直し」~せっかく見えたゴールが遠くなる?(デメリット)
1.借入のリセット~従前の借入は「無かったこと」になる
借り換えすると、従前の借入は返済となります。つまり従前借入は「無かったこと」になります。これがリスケの場合、従前の借入を残したままで返済年数を延ばしたり、金利を下げたりして返済を楽にします。あくまで従前の借入は残ったまま、つまり「無かったこと」にはなりません。
これは、実際かなり大きな違いなのですが、ここではそういった特徴があるとだけ知っておいてください。
ここでのポイントは
「借換えで従前の借入は無かったことになったが、あくまでで前向きな対応」です。
前向きな対応なので融資の増額も可能です。
2.増額借換え~増額して、しかも返済が楽になる(メリット)
借換え最大のメリットは増額借換えです。
従前融資が1,000万円ある人が、2,000万円借換え融資を受ければ、手許に1,000万円残ることになります。
(注1.実際は信用保証料や収入印紙代といった費用があるので、丸々1,000万円ではない)
(注2.実質無利子融資制度では無料になる場合もある)
また、借換え融資の返済条件次第では、増額して、しかも返済が楽になる場合もあります。
たとえば複数の従前借入が残っている人がいて、融資残金は合計3,000万円(A)、毎月計500,000円(a)ずつ返済していたとします。
この人が4,000万円(B)・10年返済で融資を受ければ(借換えをすれば)、毎月返済は毎月333,000円(b)になります。
この場合手許には1,000万円(A-B)残り、返済は167,000円少なくなります。
これが借換え最大のメリットです。従前借入が複数あると、どうしても返済額が重複して増えてしまいますが、借換えにより返済を一本化することで返済が楽になることもあるのです。
一言で言うと、借入金の返済を先延ばしにすることで”薄める”ということですね。
ただし、これにはデメリットもありますので、次で説明します。
(*シンプルに比較するため、上記の例では利子を考慮していません)
3.返済の「やり直し」~せっかく見えたゴールが遠くなる?(デメリット)
上記した例で、借換えにより返済してしまった従前の融資を考えて見ましょう。
もし従前融資が、たとえ毎月返済が大きくてもあと1年で完済になる予定だったとしたら、あと1年頑張れば返し終えられたはずの借金が、ゴール直前でスタートラインに引き戻されたとも考えられます。
今回は実質無利子融資制度がテーマの中心にはなっていますが、借入が再びスタートに戻るのは、利子を払う期間もスタートからやり直しになるということです。
実質無利子融資制度で借換えすれば、利子がある融資も無利子で借換えできることになります。
しかし、無利子の期間は3年だけ、そのあとは再び利子を払う必要があります。
3年間だけ、毎月だけを見て長期的な展望がないと、あとで困ることにもなりかねませんので、注意が必要です。
借換えの注意点
借換えの注意点は主に3つあります。
- 返済期間が延長される(前出)
- 借換えできる融資とできない融資がある
- ルール違反はペナルティーが大きい
1.返済期間が延長される(前出)
ゴールが遠のきスタートラインに引き戻されると説明しました。
一般に金融機関は融資残高の減少(「融資残高の剥落」といいます)をきらいます。
貸してこその金融機関ですが、新規融資には審査に時間がかかるため既存客に追加融資するのが手っ取り早く確実です。この時借換えを提案してくるのが営業の王道スタイルで、借入が返済に近くなった頃を見計らって(銀行員は、実際に最終期限などを調べ、スケジューリングして得意先回りをしています)提案にやってきます。
今回のコロナウイルス・実質無利子融資制度での借換えも提案されるかも知れません。これも前出ですが3年だけ、今月だけを考えず慎重に対処すべきです。
銀行員から貸増しの提案を受けるのは、まんざら悪いことではありませんが、借りて返していくのはあなたですので、良く検討してください。
2.借換えできる融資とできない融資がある
実質無利子融資制度は信用保証協会融資で、借換えできる従前融資と借換えできない従前融資があります。
- プロパー融資は借換えできない
- 責任共有対象(80%保証)は責任共有で、責任共有対象外(100%保証)は責任共有対象外でしか、借換えできない(例外あり)
プロパー融資は借換えできない
信用保証協会融資でプロパー融資は借換えできません。実質無利子融資制度も信用保証協会融資なので、やはりプロパー融資の借換えはできません。
プロパー融資は銀行が直接融資する形式で、破綻した際は銀行が回収するリスクを負っています。これを信用保証協会融資で借換えすると、銀行のリスクを信用保証協会に押しつけることになってしまいます。こうしたやり方(信用保証協会融資でプロパー融資を借換える)を「旧債(きゅうさい)振替(ふりかえ)」(旧債とは従前融資と同じ意味)といい、禁止されています。万一違反すると、金融機関に大きなペナルティーが課せられ、借りた人にもやはりペナルティーがあります。(詳細は次項で)
実質無利子融資制度でプロパー融資の借換えはできないことをぜひ覚えておいてください。
責任共有対象(80%保証)は責任共有で、責任共有対象外(100%保証)は責任共有対象外でしか、借換えできない(例外あり)
信用保証協会融資には大きく分けて2種類あります。
「責任共有制度対象(80%保証)」と「責任共有制度対象外(100%保証)」です。
<参考 責任共有制度>
簡単に説明すると、借りた人が返済不能になり代位弁済となった場合、信用保証協会が融資全額を立替えて代位弁済しますが、このときの責任度合いが異なるという意味です。
具体的には「責任共有対象外」なら全額信用保証協会が責任を負います、これは従来からの方式で別名を100%保証と呼んでいます。
いっぽう「責任共有制度対象」の場合、代位弁済しても信用保証協会では80%を保証(代位弁済)し、残り20%は銀行がリスク負担をします。リスク=責任を共有する制度で、別名80%保証と呼ばれています。実務的には、ひとつの代位弁済ごとに80%対20%と分担するわけではなく、銀行全体額で信用保証協会と按分していくのですが、本文とは関係が薄いので省略します。
話しをもとに戻しますが、責任共有対象(80%保証)は責任共有で、責任共有対象外(100%保証)は責任共有対象外でしか、借換えできません。これもプロパー融資と同じように、リスク負担に対する考えから決められているもので、こちらも違反するとペナルティーが大きいです。
3.ルール違反はペナルティーが大きい
実質無利子融資制度でプロパー融資を借換え、あるいは実質無利子融資制度の責任共有対象外(100%保証・セーフティーネット保証4号が該当)融資で責任共有制度対象(80%保証)の従前融資を借換えするなどの違反行為が判明すると、ペナルティーは非常に大きくなることが予想されます。
金融機関においては、違反を犯したことが信用保証協会に対する背任行為とされれば大問題に発展する可能性があります。
借りる人にとっては、借換え融資が取り消され、もとに戻されてしまうかも知れません。これが増額融資で、しかも増額分を使ってしまった場合は返済するお金を集めなくてはいけません。
コロナウイルスという未曾有の災害に対する施策であり、それに違反するペナルティーは重大になる可能性がありますので、充分注意してください。
というのも、これが誰にでもおこる可能性があるからです。
まとめ~ペナルティーを受けないために
「お金には色がない」
これは金融機関で通用している隠語です。要は、一度融資してしまえばそのお金が何に使われたか、詳細に追跡することはできない、という意味です。
ですから、「借換えせず全額使うつもりで」実質無利子融資制度から3,000万円融資を受けた人がいて、おかげさまで商売も回復してお金に余裕ができたので、少しでも返しておきたいと考えたとします。
このとき「信用保証協会融資より、あとあと厳しそうなプロパー融資を先に返したい」と申し出たらどうなるでしょう?
銀行は断わります。いえ、断わるはずです。
なぜならこれも「旧債振替」になってしまうからです。
一度は運転資金として使うつもりだったとしても、あくまで結果だけみれば信用保証協会融資でプロパー融資を借換えたと見なされる可能性が大きいのです。
この場合、信用保証協会側では「借換え制度を使わず、時間をおいてお金を迂回させてから旧債振替した悪質なケース」とみられてしまうかも知れません。
いずれにせよ、例にあげたようなケースできっぱりダメだと言わない銀行員も、残念ながらいます。多くは知識不足ですが、なかにはこれも残念ながら知っていて、しかも組織的に行なった金融機関も過去にありました。
大事なのは、あなたがその被害者にならないことです。そのために、今回説明した内容はぜひ覚えておいてください。
信用し相談できる銀行員ばかりではない、これも覚えておいてください。
やはり、未払いの税金を支払うべきです。督促を無視していると差し押さえを受けますし、第二納税義務というものがあり、何かしら事業を続けようとする限り逃げられません。
借入金は返済したものの、消費税の滞納をそのままにして国税から差し押さえを受け、廃業に追い込まれたケースもありますので十分注意してください。