「複数の金融機関と取引すべきか?」
これは、経営者として必ずぶつかる悩みだと思います。
自分から融資の相談をして、あるいは営業マンがやってきて取引を開始する。
事業経営をしていけば、こうして複数金融機関と取引するのが自然でしょう。
では、複数金融機関と取引するのは良いことなのでしょうか?
デメリットはないのでしょうか?
最初に結論から申し上げます。
「複数の金融機関と付き合うべきです。」
「メリット・デメリットはそれぞれありますが、メリットのほうが断然大きいです」
「金融機関との付き合い方でオンリーワンは危ないです」
今回は金融機関との付き合い方を明かします。ぜひ今後の参考にしてください。
目次
複数の金融機関と付き合うべきか?
冒頭申し上げたように、複数金融機関と付き合うべきです。
それはデメリットをカバーしてもあまりあるほどに、メリットのほうが大きいからです。
<複数の金融機関と付き合うメリット3選・デメリット3選>
- メリットその1.金融機関同士で競争原理が働く~メイン、サブメイン
- メリットその2.金融機関がせめぎ合うと「良いこと」がある~競合①
- メリットその3.断わられても次がある、良いほうを選べる~競合②
- デメリットその1.「二股」がバレると困るときがある~金融機関のプライド
- デメリットその2.みんなにいい顔をするのは大変~競合③
- デメリットその3.別れるときは背水の陣?~全面肩代わり
メリットその1.金融機関同士で競争原理が働く~メイン、サブメイン
ひとつの会社が複数の金融機関と取引している場合、融資残高が一番多い金融機関を「メイン(メイン行)」、2番目を「サブメイン(サブメイン行、単にサブとも)」と言います。これは金融業界の用語で、いわゆるメインバンクとは少し意味が違います。また複数金融機関と取引している状態を「競合」と言います・
メイン行は競合する金融機関の中で残高が一番多い、すなわち第一位ということです。
金融機関は、このメイン行になることを非常に重要視しています。うかうかしていると他行に出し抜かれることもありますので、何かにつけて金融機関同士の競争原理が働くので会社にとって「良いこと」も多いのです。
その代表的なものが、次にお話しする競合です。
メリットその2.金融機関がせめぎ合うと「良いこと」がある~競合①
例えば大型設備投資を計画して融資の相談をする場合、一般的には競合しているすべての金融機関に声を掛けます。金融機関側では何とかして自分が融資したいと考えます。競合に勝って融資実行した結果、もしかしたら融資残高でメインを抜き、自分がメインになれるかもしれません。
ですから金利や融資条件など有利な提案をして、獲得しようと金融機関同士で文字通り「競合」します。
最終的にサブを選んだとしても、一番良い条件を選んだのですからメインに嫌われることもありません。
メリットその3.断わられても次がある、良いほうを選べる~競合②
メインに融資相談をしたが、条件で納得できなかったり、メインから「今回は見送らせてください」と断わられたりした場合は、サブあるいは第三位以下の金融機関に相談できます。
条件に納得できなければサブ以下に「メインは●●だけど、こちらはどうなの?」と持ちかけて、もっと良い条件を引き出すことも可能です。ポイントは、メインは融資するが条件で折り合わないという部分です。メインで融資審査にOKが出ているので、サブ以下も前向きに対応できるのです。
また「メインに断わられたけれどウチが助けた」とその金融機関が考えるなら、こちらも融資してもらえます。
競合に勝ち、相手を出し抜くにはある程度のリスクを抱えることも必要、と言うわけです。
デメリットその1.「二股」がバレると困るときがある~金融機関のプライド
会社が最初に融資取引をした金融機関がそのままメインになるパターンは多く、銀行では新規融資、創業融資を大事にします。
「我が社に最初に融資してくれた●●銀行に、足を向けて寝られない」古くさい表現ですが、以外とこう考えている経営者も多く、日本人の美徳と言えるでしょう。
いっぽう、最初に融資した銀行はどうでしょう?
その会社が他の銀行と融資取引を開始した場合、かなりナーバスに反応します。
競合状態になり、もしかしたら抜かれるかもしれない、と危機感を持ち「▲銀行(2番目)との取引はすぐ解消してください。ウチで融資しますから」と本気で言ってくるときもあるくらいです。またその後、メインとの関係がギクシャクすることもあります。
最初に融資してくれた、「初恋相手」のメインはプライドが高く、二股がバレると困るときもあります。
デメリットその2.みんなにいい顔をするのは大変~競合③
メイン、サブと関係が上手くいっている場合も、それはそれで大変です。
「協調融資」という言葉があります。例えば大規模設備を複数金融機関で協調し、融資するものです。
融資金額が大きく単独の金融機関で対応できない場合もありますが、競合している「みんなにいい顔をする」ため、本当は単独融資可能なのにわざわざ協調融資にするときがあります。
この場合、メイン、サブ、それ以下とのあいだでいくらずつ融資するかせめぎ合いになります。基本的には会社に占める融資残高の割合(融資シェア)と同じ金額で振り分けるのですが、全金融機関が納得する配分にならないときもあり、意外と面倒なものです。それに契約書類の印紙代や手数料などを余分に払わなければいけない場合もあり、要は無駄な出費が必要になるのです。
デメリットその3.別れるときは背水の陣?~全面肩代わり
例えばいずれかで融資を受け、他の金融機関借入を全面肩代わりする場合には「背水の陣」の覚悟が必要です。上記しましたが金融機関はプライドが高く、全面肩代わりされた場合、自分を袖にした会社とは二度と取引しないのが普通です。
何年かあとに、全面肩代わりして別れた金融機関へ融資相談した場合、その金融機関は「良かった、また戻ってきてくれた」などとは絶対に考えません。そのとき業況がどれだけ良くても、断わるところは結構あります。
まとめ~オンリーワンは危ない?~銀行員が考える、金融機関との上手な付き合い方
ここまで説明してきて、まるでプレイボーイ(ガール)の異性遊泳術のようになってしまったかも知れません。
しかし、デメリットはメリットに比べれば小さく、ダメージも(全面肩代わり以外は)それほどではありません。
それよりお伝えしたいのは、複数金融機関と付き合うべきというより、「オンリーワンは危ない」ということです。
例えば最初に融資してくれた金融機関に恩義を感じて、いくら営業をかけられても浮気をせず、律儀にその金融機関だけの取引(一行取引と言います)を続けていると、次の融資を断わられたとき急に2番目を探すことは困難です。
会社の業況や金融機関側の都合などが影響し、いつでも融資してくれるとは限らないのです。
そして金融機関も一行取引の場合、融資を断わるとどうなるかわかっているので、実のところ競合しているほうが良いとも考えているものです。